映画・食・音楽・本・・・好きなもの

2024年3月24日 広島ゾーナイタリア イン・チェントロ「横山幸雄&藤田卓也夢の共演」 

以前は年1回の恒例で毎年開催を楽しみにしていたのだが2019年7月6日を最後に、コロナ禍もあって途絶えていた横山幸雄と藤田卓也の共演。コロナ規制も解けてそろそろ企画して欲しいと主催者の濱本先生にお願いしていたのだが、今回実現して実に嬉しい。

目の前で見て聴く藤田卓也の素晴らしいテノール。         歌声だけで酔ってしまう。まさにすぐ目の前で息遣いも表情も手に取るように感じとることができる。曲間のお喋りも上手で楽しい。    トスティの2曲「かわいい口元」「暁は光から」から始まり、ドニゼッティの歌劇「愛の妙薬」より「人知れぬ涙」。ちょっと切なさに感情が揺さぶられる。プッチーニの歌劇「トスカ」より「星は光りぬ」ときて最後のララの「グラナダ」で最高潮!               次の横山幸雄の演奏も終わり濱本先生の締めの言葉もあって、愉しい時間も終わりと思っていたら、何とアンコールで「オー・ソレ・ミオ」。最後の最後に、再び藤田卓也の登場で得した気分。数年来の待ちわびた気持ちを一気に晴らすことができた。   

この共演で良いことの一つに、横山幸雄のピアノ演奏が普段と違うことがある。共演者がいて、それも華やかなオペラが先に披露されてしかも大きな拍手が鳴りやまず「アンコール」の掛け声まで飛ぶのだから、いくら世界的大ピアニストであっても、後からの登場に刺激を受けない筈はない。凡人ならばプレッシャーを受けるところだが、さすがに天下の横山幸雄。素振りもみせずいつもと変わりない力を抜いた様子でピアノの前に座るや否や、すぐに指が鍵盤の上を華麗に流れていく。タメを作らずすぐに演奏に入るのが横山幸雄の特徴。特に一番最初の演奏前は大概のピアニストが集中する時間を要するのに、いつも即演奏が始まる。むしろ観客の方が聴く準備ができておらず慌ててしまうほどだ。   しかし、いつもと変わりない様子でも演奏は一味違う。ピンと極限まで張り詰めた緊張感のある特別な演奏でゾクゾクするほどだ。相乗効果と言えるだろう。「愛の夢」から始まり、「ため息」「献呈」「リゴレット パラフレーズ」そしてラストが当初の予定を変更して「ラ・カンパネラ」とリスト尽くし。どの演奏も素晴らしい。数多聴いた過去のどの演奏よりも素晴らしい「ラ・カンパネラ」。最高!

濱本先生ご自身が聴きたいと思って実現した両雄の共演。実現には人気者で多忙を極める2人のスケジュール調整を含め、色々とご苦労も絶えないことと推測する。濱本先生に感謝と敬意を表する次第。                                      須磨 光

2024年3月12日 広島「mont mont mont」 

気さくに美味しいワインと料理を愉しめる「mont mont mont」。  3日前に「hiroto」で飲んだリースリングが久方ぶりだったが美味しかったので、今日の白ワインはドイツのリースリングをボトルで頼んだ。そういえば昔はドイツワインに嵌っていた時期もあったなと思い出す。ドクター・エル・リースリング・ドライ。             デイリーワインクラスながら、モーゼル・リースリング特有のシャープな酸味を味わえる。シャンパーニュとブルゴーニュの赤も飲んで、酔っぱらってしまった。料理もオーダーし過ぎて、最後のデザート辺りではかなりの満腹感で苦しくなった。飲みすぎ・食べ過ぎに反省。


★ハーブたっぷりグリーンサラダ                 ★モンモンモン的ウフマヨネーズ                 ★塩豚と上州ねぎのキッシュ                   ★新庄ねぎのフリット                      ★ムール貝の白ワイン蒸し                    ★ポテト&若どりの唐揚げセット                 ★自家製ライ麦パン                       ★広島産カキのフライ                      ★骨付きラムチョップの炭火焼き                 ★せとかのタルト                        ★コーヒー




                            須磨 光

2024年3月11日 読書 

伊坂幸太郎の殺し屋シリーズで、夢中になって読み終えた傑作「マリアビートル」の続編とあれば、もう期待しかない。「777(トリプルセブン)」だ。

おなじみの不幸を呼ぶ男「天道虫」が次々と襲い掛かる災難をどう凌いでいくかが一つの焦点なのだが、伊坂の作品は伏線張りまくりの、主要キャラがみんな立っていて読み手によって感情移入する登場人物も異なると言う凝りに凝った作りが特徴だが、本作でもそれは健在だ。

伊坂の作風で一番好きなところは、結構悲惨なストーリーが続いたりするのだが、ラストでは想像だにしないどんでん返しと見事なまでの伏線回収に加えて、少しばかり心がホッとする救いのあるオチがあるところだ。それは初期のころの大ヒット作「重力ピエロ」や前回読んだ「残り全部バケーション」などにも共通している。正義を振りかざしていないところがいいのだ。読後、少しだけ幸せな気持ちにさせてくれるのだ。

「マリアビートル」が疾走する特急列車の中で展開していたのが、今回は高層ホテルの中ということで、水平だけの移動から垂直方向への移動も加わり、移動手段も階段やエレベーターなど複雑化している。客室や宴会場など身を隠す場所も多いのだが、ホテルで無数に設置してある防犯カメラも駆使しての追いつ追われつのハイテクも用いた攻防戦が繰り広げられる。しかし、しかしだ。やはり物語は複雑になれば面白いというものではないのだろう。列車内という前後にしか逃げ場のない限定された空間で、それに列車が高速で走り続けているという疾走感も加わってひりひりするほどの緊迫感と比べると、多少の物足りなさを感じたことは否めない。まあ、前作がそれほど傑作だったということなのだろう。本作も善と悪がオセロのように終盤で見事に裏返る、誰が善で誰が悪か、予想をやすやすと覆す見事なオチときれいな伏線回収は、見事というほかない。

                            須磨 光

2024年3月9日 広島「hiroto」 

今年2回目の「hiroto」。今日は医療法人朋友会理事長の小林讓治先生の誕生日を祝って、2人で会食した。

たまに手伝いにこられる的場ソムリエを別として、シェフと若いギャルソンの2人は愛想がないが、料理には真摯に向き合い確かな味と工夫でとても美味だ。広島のフレンチとしては1、2を争う美味しさだろう。 ミシュランやゴ・エ・ミヨといったレストラン格付けは、参考にはするもののいい加減な査定もあり、全面的には信頼を置いていないのだが、ここの料理に関してだけは中四国フレンチレストラン唯一のミシュラン2つ星も十二分に得心できるものだ。サービスにホスピタリティがあれば、3つ星でも不思議ではない。

特に絶品だったのは最初のオードブル2品。複雑で奥行きのある旨さを味わえた。牡蠣は軽く火を入れただけの半生状態で、これも食感がよく美味しかった。河豚の雑炊も相変わらず旨い。メインは和牛と骨付き鴨肉と2皿供された。最後のデセール。最近は2~3皿と多種提供される傾向にあるが、1品だけ。これがまた旨かった!専門のパティシエが作ったかのような美味しさ。最後を締めくくるに相応しいデセールだった。

シャンパーニュで乾杯し、白ワインはドイツのリースリング。このリースリングは美味しかった。赤は2013年のヴォーヌ・ロマネとボルドーの2種類を頂いた。やはり、ここはブルゴーニュが旨いなあ。




右の写真は、医療法人朋友会理事長・小林讓治氏。     

                            須磨 光

2024年2月23日 広島「OZAWA」 

コロナ禍を契機に3年近く休業を続けていた「OZAWA」が、ようやく2/22に再開した。早速、開業翌日の2/23にディナーで訪れてみた。

小沢貴彦エグゼクティブシェフ自らが出迎えてくれて、温かいもてなしを受けた。既知のソムリエ小浦健太さんの顔もあり、懐かしさ全開だ。小浦ソムリエにチョイスして貰ったシャンパーニュと濃い目のブルゴーニュの白、とても旨い。赤はボルドーではなくブルゴーニュでお願いした。ワインはこの3年近くセラーに寝かされたままで、ポテンシャルのあるワインは熟成が進み、近年のワイン価格高騰もあってかなりお得感のあるワインも多いとのこと。その一方で、寝かし過ぎて味の落ちたワインはバーゲンセールで早めに出し切ってしまわないといけないとのことで、色々と苦労もありそう。苦労と言えば、休業中に小浦ソムリエもホテルのフロント業務などソムリエ以外の業務もこなし、沖縄にも半年行っていたとのことで、生活も仕事も大変だったとの話しを聞いた。 調理部門も休業中に3人が離職してしまったとのこと。コロナが仕事も生活も変えてしまったんだなと、改めて実感する。久重浩シェフも去ってしまった1人だ。今は大竹の「SIMOSE French Restaurant」のシェフをしている。新しく就任したのは海野光生シェフだ。懐かしい顔、新しい顔、色々あっても「OZAWA」の料理は変わらない。

「最初の一口」から始まり、次の料理は江田島のブロッコリーを使った「広島野菜のひと品」。さくさくとした食感が愉しい。温かいオードヴルーはOZAWAスペシャリテの「オマール海老の茶わん蒸し」。本日の魚料理は鰆だった。肉料理は「広島県産牛フィレ肉のグリル/トリュフソース」を選んだ。何と言っても絶品だったのは、小浦さんにお勧めだと言われた冷たいオードヴルーの「車海老とトマトのゼリー寄せ/赤ピーマンソース」。もうこれを食するだけで本日のディナーに来た価値があるというものだ。車海老の入ったゼリーとトマトの酸味が絶妙だ。小沢エグゼクティブシェフにそのことを伝えたところ、俳優の高橋英樹さんが大好きで毎回これだけを食べにこられていたと笑っておられた。見た目も美しいが、ゼリーだけ、ソースだけ、またそれぞれを混ぜて食べると、異なる食感も味も楽しめて芸術的な逸品だ。フィレ肉のグリルも、ソースで食べさせるのではなく、焼き加減や塩加減が絶妙で肉自体の味がしっかりとしており、これも美味しかった。「OZAWA」が戻ってきたことを嬉しく思う。

右の写真は、小沢貴彦エグゼクティブシェフを囲んで。

                                                             須磨 光

2024年2月21日 読書 

時間の余裕ができて積読状態だった小説を、何冊か一気読みした。

最も好きな作家の伊坂幸太郎の「残り全部バケーション」。伊坂らしくウィットにとんだセリフの数々と、巧妙に張り巡らされた伏線。意表を突くどんでん返し。希望の持てるラストで読後感も心地良い。よくできた話しではあるが、何か胸を打つような感動まではない。伊坂の小説は頭の中にまるで映画のように映像が再現されるのだが、今回はそこまでではなかった。

堂場瞬一の「謀略 警視庁追跡捜査係」。警察物で大変解り易い本だ。登場人物も多くなく、その人物のキャラクターが見事なまでにパターン化されていて求められている役割が実に明快だ。頭脳派で理詰めで推理していく刑事。それを支える元・婦警で理解あるオアシスのような存在の妻。主人公の刑事とは対照的に足で稼ぐ現場百回がモットーの熱血漢でアウトローな雰囲気の同僚刑事。テレビの2時間ドラマにピッタリに思える。謎解きはそれほどの意外性はなく、状況証拠しかないので否認されたら起訴できないのではとの疑問も、あれだけ逃げ回っていた犯人があっさりと自供するなど、ドラマの時間に合わせて辻褄合わせしたようにも感じる。

垣根涼介の「極楽征夷大将軍」。足利尊氏が無欲・無教養・無気力の頭の中身がない空虚な人間として描かれているのが面白いのだが、この本の主人公は尊氏ではなく弟の直義と執事の高師直と見るべきなのだろう。2人が交互に己の胸の内を吐露していくのだが、どちらも正しいように思えてくる。法に沿った公平性では直義、足利の武家社会を円滑に維持していくには師直。直義は後世の石田三成のような文官として有能だが今一つ人の気持ちが掴めない人物だったのかもしれない。直義は兄のことをどうしようもない愚か者と断じつつも、兄に忠誠を誓い支え続けていく。強い兄弟愛が描かれているのだが、最も身近で長く接していた直義が兄を理解するのが誰よりも遅く最後だったというのが面白い。赤松円心や楠木正成は、一目で尊氏の器を見抜き、直義同様、長らく侮っていた師直も直義より一足先に気が付いたというのは皮肉にも思える。それにしても大河ドラマの「太平記」では良いところも描かれていた後醍醐天皇が、本書では人柄も能力もとことん酷く書かれている。

呉勝浩の「爆弾」。これは傑作だった。まずは文章が美しい。洒落た言葉遣いに溢れている。登場人物はやたらと多いのだが、それぞれのキャラクター設定がしっかりと作り込まれている。それも単純ではなく、それぞれに長所も短所もあり、また正義や感情にも揺らぎが描かれている。人物がリアルなのだ。複雑なのだが、流麗な文章と緻密な構成で流れるように入ってくる。読後感も心地良い。素晴らしい本だった。

逢坂冬馬の「同志少女よ、敵を撃て」。大作だ。5部構成くらいの長編映画を観終えたような気持ちになる。今のロシアが「ナチズム」に対する嫌悪感を抱くのも、ナチによるソ連への侵攻という歴史を鑑みれば当然のことなのだろう。ソ連に従属させられ、ドイツが解放に導いてくれる救世主のように思っていたらドイツもウクライナを奴隷のように扱う。何のことはない、主人がソ連からドイツに変わっただけという虐げられた歴史を持つウクライナの悲劇は胸を打つ。こうした歴史があれば、ロシアから死に物狂いで領土や主権を守ろうとするのは当然のことなのだろう。ようやく自由を得たウクライナ国家をソ連時代に引き戻そうとするロシアの動きは許されるものではない。

                                                             須磨 光

2024年2月14日 バレンタイン・ショコラ 

妻と娘たちがバレンタインに、ショコラを贈ってくれた。

沢山のショコラにケーキとシャンパーニュ。            デザートビュッフェかというくらいに食べて飲んだ。

「BENOIT NIHANT GINZA」のショコラ、サクラやパッションフルーツ、シナモンやナッツがアクセントになっていて、それぞれに複雑な味わいと食感があってとても美味だ。

ゴ・エ・ミヨで2021年にベストショコラティエを受賞したベルギーのブノワ・ニアン。流石に素晴らしいショコラだ。

カロリーと糖質の摂り過ぎが心配だが、今宵はそんなことも忘れてすっかりと酔っぱらってしまった。


                            須磨 光

2024年1月28日 広島ゾーナイタリア イン・チェントロ「横山幸雄コンサートディナー」 

右のプログラムのうち、「マズルカop.44」は「ポロネーズop.44」へ変更。昨年からこのコンサートディナーでは、ショパン全曲を続けてきているが、なかなかリサイタルではお目にかかる機会の少ない、珍しい曲が体験できるのもこの全曲シリーズならではだろう。           それにしてもショパンの全曲をレコーディングならいざ知らず、生演奏で観客に披露すると言うのは誰にでもできることではない。引き出しの多い横山幸雄ならではであろう。

本日のプログラムであれば、ラストの曲「演奏会用アレグロop.46」がそうした曲に該当するだろうか。この曲は、2台ピアノもしくは独奏ピアノの為の、ショパンにとっては第3となるピアノコンチェルトとして構想されたが協奏曲として完成することはなく、後年ピアノソロ曲として書き改められた、いわば幻のピアノ協奏曲第3番とも言えるような作品だ。その為、曲はピアノ協奏曲の第1楽章に近い。        演奏者はピアノ1台でオーケストラパートとピアノソロを弾き分けなければならず、オーケストラ部分は速いオクターブの連続があり高い技術が求められ、この曲をショパンの最難曲と考える人もいる。因みに、後年ピアニストのアラン・コゴソウスキが演奏会用アレグロop.44に、編曲した夜想曲第20番とボレロを加えて「ショパンピアノ協奏曲第3番」として発表しているが、やはりショパン自身が完成させたピアノ協奏曲第3番を聴いてみたかったと思うのは、私だけではないだろう。

横山幸雄は、この難曲を圧巻の演奏で弾き切った。どうも練習的意味合いもあるコンサートディナーでは、難曲であるほど集中力が一層増して素晴らしい演奏になるように感じる。

次回コンサートディナーは、本当に久々、テノール歌手の藤田卓也と横山幸雄の共演という何とも贅沢なプログラムが用意されている。   今から3/24が待ち遠しい。                          

                            須磨 光

2024年1月27日 広島「hiroto」 

富士見町・地蔵通りにあるフレンチの店「hiroto」。                                               

リモージュの皿に盛りつけられた数々の料理は、見た目も美しく複雑で繊細な味わいで愉しませてくれる。

どの料理も美味しいのだが、冬の季節ならでは牡蠣がでてきたのは嬉しい。シャンパーニュと白ワイン、ブルゴーニュの赤を堪能した。

シェフが寡黙なのはいいのだが、予約の受け方はもう少し工夫して欲しいところ。

                                                             須磨 光

2023年12月31日 大晦日に「ほりかわ」のふぐ刺し 

毎年、大晦日に某医療法人理事長から中区紙屋町にある「ほりかわ」のふぐ刺しを自宅に届けて頂いている。                                                   今年は久々に家族全員が揃い、5名で食卓を囲んだ。

ふぐ刺しの大皿は量もたっぷり、とても美味しく贅沢に箸で一気に取っていった。子どもたちも美味しいと皆舌鼓を打つ。感謝感謝である。                     これに梅の花のオードブルを加えて、まあこれもボリュームが凄い。満腹となり、ほろ酔い加減で会話に花が咲いた。

縁起物なので、年越しそばを多少無理して食し、元日の神社参拝に備える。愛猫2匹と家族全員が集い愉しい1年の終わりを迎えることができた。

                                                             須磨光

2023年12月30日 広島「ステーキ青ひげ」 

初めて訪問する「ステーキハウス青ひげ」。                                                   コース料理も色々と用意してあるが、今回は家族での会食の為、たくさんの単品料理をシェアして楽しめるようテーブル席だけ予約した。

だし巻き卵、青ひげサラダ、豆腐とじゃこのサラダ、海老とブロッコリーのマヨネーズ焼き、地蛸ときのこのガーリックバター焼き、焼きポテトサラダ、穴子の白焼き、ホタテのバター焼き、牡蠣のバター焼き、車海老焼き、鮑のステーキ、うにホーレン、広島牛ヒレステーキ、広島牛サーロインステーキ、広島牛コウネのタコライス、広島牛ガーリックライス等々、次々とオーダーした。1日2食限定とあり、ランチ営業もしているのでもう残っていないだろうと思いつつ訊いてみたら、ちゃっかりと残っていた幻のハンバーグステーキ(笑)。これにデザートも加わるのだから、食べきれないくらいで腹いっぱいかといえばまったくそんなことはなかった。とにかくすべての料理の量が少ないのだ。シェアして数多くの種類をオーダーするには不向きだ。「モン モン モン」とは対照的だ。アワビは殻だけは立派だが、中身は実に貧弱。アワビではなくトコブシ?と思わず思ったものだ。車海老も極めて小さく10㎝に満たないのは確か。コマキか、いいとこサイマキだろう。まあ、色々と追加注文していると、1人当たりの単価は結局コース料理の価格を軽く上回ってしまった。コース価格はメニューだけ見ていると安価なように見えるが、この量であればコスパは決して良くはない。味は悪くないので、この素材には残念だ。しかし、最も残念だったのはサービスの方だった。予約の際、時間割や時間制限の類は一切記載がなかったのだが、着いた途端に20時から次の予約が入っているので、10分前には帰るようにと言われたのだ。無論、予約時もその後の確認メールでも、また前日の直前確認メールにもそうしたことには一切言及がなく、当日席について初めて言い渡されたのだ。これは大変と、ワインを愉しみながらゆっくりと会食するつもりが、急いでどんどん食べなければとまとめてオーダーし、次々と卓を埋めていく料理を消化していった。     しかし、隣席の初老の男女はもっと気の毒だった。我々よりもスタートが遅かったのに、19時半には次の客が待っていると告げられて戸惑っている様子がありありだった。

何とか時間に間に合いそうだと思いつつ、最後のデザート、「広島で噂?のアップルパイ」と「シャーベットの盛り合わせ」を待つばかり。「噂?」とあるのが、噂になっていないのは百も承知だが、これで噂になればいいなとの願望が読み取れてあざとさに苦笑する。ところがこれまでの料理は次々と運ばれてきたのにも関わらず、デザートは一向にくる気配がない。そのうち出て行けと言われた10分前になったので、料理を運んでいる従業員を捕まえて時間になったからもういいと伝えたのだが、「大丈夫です。すぐに持ってきます」との返答を得てさらに待ったのだが5分前になってもやはり出てくる気配すらない。そこで、カウンターまで出向いてオーナーシェフに直接キャンセルを告げたのだが、やはり応じてくれない。結局1分前に持ってきて、1分でかき込むことになったから味わう余裕もなく美味しかったか不味かったか記憶にない。

普段は何回転もするようなことはないのだろう。12月30日ともなれば大概の飲食店は既に年末休業に入っている。一品料理を頼めてビールや酎ハイを頼める店は貴重なのだろう。居酒屋感覚で賑やかに楽しんでいる若者たちが多かった。おそらくせっかくの稼ぎ時に、できるだけたくさんの客を詰め込みたかったのだろう。しかし、この店は高単価の料理やルイ・ロデレールのクリスタルやシャトー・オーブリオン、オーパス・ワン、サッシカイアといった高級ワインもラインナップしている。短い時間制限を課して、シャトー・オーブリオンを水のようにがぶ飲みさせようというのか。低価格で客数を稼ぐのか、高価格帯で利益率を高く設定するのか、そのあたりのコンセプトが曖昧で、なんでも欲しがり迷走しているように感じた。せっかく予約をしてくれる客を失いたくないという気持ちは分からないではあるが、高単価の注文をしてくれるリピーターを失ったのでは、まさに籠で水を汲むようなものだ。                                              須磨 光

2023年12月27日 広島「mont mont mont」 

今月2回目の「モン モン モン」。                                                   今回は家族4名でテーブル席を利用した。

人数が前回より倍増したので、食べられなかった他のメニューも色々と頼んでみる。シェアしてたくさん食べ、たくさん飲んだ。        シャンパーニュと白ワイン。料理は美味しかったキッシュはマスト。牡蠣フライもこの時季だからやはり食べておきたい。エリンギの炭火焼きステーキバルミジャーノがけ、若鶏のから揚げ、さくさくひとくちフライドポテト、鴨と豚肉のパテ・ド・カンパーニュ等々、何もかもが美味しい。 ショートパスタのフジッリもシンプルだが、いくらでも口に運べてしまう。

今夜はアコーディオンとオカリナ奏者の野口美紀さんが来ておられて、その素晴らしい演奏を聴きながらのワインと料理。アコーディオンは何か懐かしく優しい音色で、幸せな空気に包まれる。最高の夜を大切な家族と共に過ごすことができて幸福だった。            須磨 光

2023年12月24日 自宅でクリスマス 


前夜は「リュニベル」でイブイブだったが、本日は自宅でイブの一夜を過ごす。食事の後は、ケーキとシャンパーニュ。          写真で見ていた限り、箱はデカイがケーキは小さくちょうどよい大きさだろうと踏んでいたのだが、何の結構なボリュームで食べきるのに一苦労した。

見た目は映えるが味の程は如何ほどと一抹の不安もあったものの、控えめの甘さに多層的な味わいがあり、十二分に美味しかった。

                            須磨 光

2023年12月23日 広島「リュニベル」 

1月か月ぶりの「リュニベル」。今日のメニューは、クリスマス特別コースだ。最初のアミューズブーシュ「カニフラワーツリー」から始まり、デセール2品目は「栗スマスツリー」と、ダジャレだがクリスマスムードたっぷりに始まりと締めを演出している。デセール1品目の「幻のリンゴ」はリンゴ飴のようでお祭り感があり、見た目からワクワクさせられたが味は複雑で美味しかった。今日は定番の「小宇宙プリン」がなかったけど、今日のようにデセールも毎回異なっている方が個人的には嬉しいかな。「比婆牛」は低温調理ではないけど長時間かけての下ごしらえで旨味と柔らかさが共存し、いつも通りに美味しい。添えられた奥様の実家で採れた野菜も旨い。

本日一番気に入ったのは、「リュニベルTKGs」。TKG・・・卵かけごはんですね。雲丹にトリュフがかけられていて、とても美味しかった。料金は高くなるけど特別メニューは色々と楽しめる。前回は、個人的に料金を提示して特別メニューを作って貰ったけど、どの価格まで満足させてくれるのかシェフの実力に未だ底が見えず、愉しみはまだまだ続く。


クリスマス特別メニューは以下の通り。

★カニフラワーツリー                                                          ★鰤                                                                ★鰆                                                                ★白子                                                               ★リュニベルTKGs                                                           ★甘鯛                                                               ★比婆牛                                                                                                         ★幻のリンゴ                                                            ★栗スマスツリー                                                          ★コーヒー/ハーブティーと小菓子                                                                                                             

                                                             須磨 光

2023年12月6日 広島「mont mont mont」 

中区小町にあるワインバー「モン モン モン」。          先だって「昇月庵」を訪れた際に、偶然目にして気になっていた処だ。昇月庵の前の通りを数メートル進むと、四つ角の一角を占めている。 白い壁に鮮やかな青い扉が人目を惹く。最初に見つけたときには扉が開いていて、中を覗き見ることができた。カウンターの上のバーにワイングラスが引っ掛けられてずらりと並んでいる。ちょっとヨーロッパの街中にでもありそうな雰囲気に心ひかれた。美味しいかどうか分からないが、一度チャレンジしてみようと、予約して本日訪れてみた。    カウンター席を2人で腰掛ける。寒かったら使ってくださいと椅子の背にひざ掛けが用意されており、まずはその気遣いに好感を得た。インスタのメッセージで予約できる点も手軽かつ履歴が残るので、予約漏れやダブルブッキングのトラブル時に安心だ。電話だけで予約を受けるミシュラン星付きの有名フレンチ店で、電話を受けていないと言われたときは困惑したものだ。オーナーシェフに掛けた番号を示すと「うちの番号ではない。こんな番号は知らない」と言われて、その場で試しに掛けてみるとシェフのスマホが鳴り出して、気まずい沈黙が訪れたものだ。 

スタートはシャンパーニュを、次はブルゴーニュの白をグラスで頂いたがとても美味しい。料理はフルーツのサラダ、キッシュ、牡蠣フライ、蛸と合鴨の燻製、和牛モモ肉の炭火焼き、パスタ、等々ちょっと食べ過ぎなくらい頂いた。ここは1人分の量が多いので、複数で食べるときはシェアした方が色々食べられて楽しい。キッシュも1人分をさらに半分にカットして取り分けてくれる。どれも美味しく、キッシュはお土産で持ち帰り翌日の朝食でも頂いた(笑)。和牛モモ肉も炭火焼きは盛りつけられた皿が美しくインスタ映えしそうで、インスタしていないのにちょっとテンションが上がった。ただ、モモ肉ということで年寄りには歯ごたえがあり過ぎで、次回からはいいかな。でも値段からすると十二分に美味しい。奥のテーブル席ではグループ客が楽しそうに会食し、カウンターには1人客がワインを数杯愉しんで長居することなく退去したかと思ったら、入れ替わりに別の1人客がすぐにやってきて同じように静かにグラスワインを嗜む。いい雰囲気だなあ。美味しいワインと料理、それに居心地よい空間。また、すぐにでも訪れたいと、近いうちに再訪し、本日口できなかった他の料理にもチャレンジしてみたいと思わせてくれる良店だった。                       須磨 光

2023年12月4日 「ゴジラ-1.0」 

特段、ゴジラファンということではないが、子どもの頃に観た初代ゴジラのワンシーンが強く脳裏に焼き付いている。薄暗い中、息を殺して建物の陰で潜む小さな人々。伊福部昭のあの有名な曲、独特のリズムが大きく鳴り響く中、巨大な怪物が足音を立てて近づく恐怖。今のレジャー施設のようなシネマコンプレックスではない。薄暗い小さな見世物小屋のような昭和の単館が、一層恐れを盛り立てていたように思う。

今回の「ゴジラ-1.0」は、これまでのゴジラシリーズとは全く異なっていた。そもそもだが、主役が違う。今回はゴジラは脇役で人が主役だった点に驚いた。伊福部昭のテーマ曲がこれまではゴジラの登場シーンで使われてきた。まさに文字通りゴジラのテーマ曲だったのだ。    それが今回は、ゴジラを倒す為に立ち上がった市井の人々が立ち向かう際のバックミュージックに使われている。ゴジラの恐怖を煽るリズムではなく、一人一人は無力の小さな人々が振り絞る知恵と勇気を鼓舞するリズムとなっている。主役は明らかに人間で、ゴジラは引き立てる脇役に過ぎない。

日本国内よりも、むしろ北米を中心とした海外での評価が高いようだ。Rotten Tomatoesでの批評家スコアが97%、観客スコアは98%と驚きの高評価だ。日本語音声で字幕映画にも関わらず、観客は泣き・笑い、そしてスタンディングオベーションで感動を表現しているとのこと。 これは上映館数を増やして、北米での記録的大ヒットとなる予感がする。ギレルモ・デル・トロ監督は「奇跡だ!」とSNSに発信し、ゴジラ-1.0を高く評価した。これだけ北米での感動を得ている理由は、市井の人々を主役として丁寧に描いているからだろう。主人公と同居する女性、赤ん坊、息子を失った臨家の母親。皆が血のつながりのない赤の他人なのだが、明らかに家族として結びついている。疑似家族の強いつながりと相手を思いやる心。いかにも北米で受ける要素だ。

日本の映画芸術が毎年発表する「ベスト&ワースト10」の2023年版が発表された。ゴジラ-1.0はワースト部門の3位にランクされたが、恐らく娯楽作品は芸術性が薄いとの思い込みから評価が低くなる傾向にあるのだろうが、そうだとしても古沢良太脚本の「レジェンド&バタフライ」がワースト9位で、この順位差には驚いた。一体全体好みだけで評価しているのだろうか。それとも単に天の邪鬼なのだろうか。     須磨 光

2023年11月27日 広島「il nebbio」 

いつものイタリアン「il nebbio」。広島のイタリアンではトップレベルの料理だと思っている。ワインもプロセッコや美味しい白をグラスで手軽に頂くことができる。ワインの種類が少ないのが難点だが、ドリンクメニューに「ソムリエ厳選本日のワイン」が増えていて早速オーダーしてみた。ソムリエお勧めとはいっても銘柄が決まっている訳ではなく、何のことはない。ソムリエが好みを訊きに来て、それならばといくつかお勧めを出してくるごくごく一般的なやり方だった。それでも若い女性ソムリエとワインの話しをし、セレクトしたワインに舌鼓を打つ。会話が一層味を引き立ててくれた。

料理は相変わらず見事というほかない。皿の上に盛り付けられた料理の美しさ、独創性、味、五感に訴える感動をもたらす。「子羊肉のパテ・赤来姫リンゴのコンポート」や「甘鯛のうろこ焼き」、「カモ肉とリコッタチーズのカペレッティ」などどれも美味しい。

ただ一点、メイン料理の「島根熟豊和牛54℃大分産銀杏のコンフィロースト」の牛肉はいただけなかった。筋が多く嚙み切れない。同席者も同じ感想だったので、たまたま私の肉だけがハズレということではないのだろう。銀杏は大変美味しかった。食後にシェフが来て、来年から特別ディナーコースを値上げすると心苦しそうに述べていたのだが、昨今原材料などが値上げし続けている中でこのクオリティを保っていくのはさぞ大変だったことだろう。原材料だけではない。人件費や光熱費などすべてがコストアップしている。こうした物価高が影響しているのかもしれない。そもそもだが、ここの特別ディナーコースはこれまでが安すぎたともいえる。消費者からみると大変コスパに優れたとなるのだが、コストを何とか削って利益を出そうとするよりは、もっと単価を上げてより良い料理を提供し続けてもらいたいと個人的には願っている。低価格帯からもっと高価格帯まで料理の幅を上振れ方向で拡げても良いのではないかと思う。広いキャパを持つ店内は、安く美味しいイタリアンを楽しむ若者で溢れている。シェフの技量からすればさらなる高価格帯のコースに加え、ワインを揃えれば客層が一層広がるのではないだろうか。

最後に出てくるドルチェは「ティラミス」が定番のだが、毎回違った「ティラミス」を提供してくれるのでどんなものかと楽しみにしている。  今回はエクレアのティラミスだった。

特別ディナーコースメニューは以下の通り。

★横輪マグロと北海道ビーツのタルタル仕立て カシスとザクロ                                                          ★山陰産ミナミ赤座海老のフリット                                                           ★サーモンマリネとヨーグルトのジェラート                                                       ★スペイン産乳のみ子羊肉のパテ 赤来姫リンゴのコンポート                                                           ★浜田産甘鯛のうろこ焼き 菊芋のクレーマーとイタリア産カラスミ                                                             ★ピエモンテ産白トリュフ マッシュルームとトリュフのラグータリオリーニ                                                                                                         ★フランス産カモ肉とリコッタチーズのカペレッティ クロッカンテ                                                    ★島根熟豊和牛の54℃ 大分産銀杏のコンフィロースト マルサラとグリーンペッパーソース                                                        ★富有柿・チョコレート・ゴルゴンゾーラ                                                           ★ティラミス                                                            

                                                             須磨 光

2023年11月24日 広島「リュニベル」 

白島の「リュニベル」。今回は無理を言って今井シェフに特別メニューを作って貰った。赤ワインも持ち込んだ。2006年のシャトー・ラトゥールだ。2006年のラトゥールは、ジェームズ・サックリングが96点、ワイン・アドヴォケイトとワイン・スペクテーターが95点を付けている。飲み頃は2018-2038だから、飲み頃には入っているが少し早い。 同じ2006年でもシャトー・マルゴーの飲み頃が2026-2056で熟成は2032年以降とされているのと比べると、5大シャトーの中では、今飲むのに相応しいと言えるだろう。抜栓したが、2022年3月に飲んだ2013年のシャトー・ムートン・ロートシルトのような一気に空中へ漂う華やかな香りは感じられなかった。しかしコルクからはしっかりと香りがする。そこでシェフの奥様であるソムリエへ、デキャンタージュをお願いした。時間を置くと、香りはさらに豊かになり、味わいは複雑に変化を続ける。シェフとソムリエにも一緒に飲んで貰って愉しい時間を過ごすことができた。

             【特別メニュー】

★焼き茄子をピュレ状にしたタルト。赤大根、宮城県石巻のサンマ、塩分3%のキャビアを乗せた茄子のタルトを指でつまんで一口で食す。 ★雲丹と鮑のクスクス。上質の雲丹と鮑、それにクスクスの食感が相俟って、まさに絶品だった!                    ★アオハタを塩とビネガーマリネで味付け。二十日大根をピュレ状にしたソースに自家製のカラスミを削り、ペッパーとトマトの薬味を添える。菊の花をイメージした皿に合わせ、福山の食用菊が飾られていた。★白ワイン醤油で漬けた北海道産のイクラ。上に乗せられた庄原の香茸がアクセントになっている。                   ★広島の松茸と白子。菊芋をピュレ状にし、魚の出汁と黄柚子でソースを作る。                            ★長崎対馬の矢柄と宮城の帆立。毛蟹、松茸、矢柄の出汁を伸ばしてソースを作る。赤矢柄が見た目にも美しい。             ★北広島町の雌のシャトーブリアン。3時間かけて旨味を閉じ込め柔らかく仕上げる。フィレの横あるスジ肉も添えられており、異なる食感を愉しめた。ワイン、ブランデー、広島牛から作ったソースは控えめで肉本来の味わうことができる。東広島で作られた自然農法の野菜が、とても美味しい。いつもながらリュニベルのステーキと野菜は絶品だ。                                      ★デセールは、いつものショコラと小宇宙プリンに加えて、葡萄。

行きつけのフレンチレストランとして美味しい料理、美味しいワインと会話で、心地良い時間を過ごすことができる。        須磨 光

2023年11月4日 広島「昇月庵」 

中区小町の一歩通行の路地沿いにひっそりと佇む「昇月庵」。

L字のカウンターがある小さな空間だ。一歩足を踏み入れると凛とした空気が漂う。ミシュラン二つ星で、ゴ・エ・ミヨでも2トックを獲得している和食の名店だ。

ミシュラン三ツ星・ゴ・エ・ミヨ3トックの白島にある「なかしま」と店構え・規模やオープンキッチンであること、土鍋のご飯が供されること、ワインやシャンパーニュが用意されていることなどでよく似ているのだが、動の「なかしま」に対して静の「昇月庵」という違いを感じる。「なかしま」では料理だけではなく器や店の欄干などを名物女将が丁寧に説明してくれて、その過剰なまでのホスピタリティで賑やかに楽しく時間を過ごすことができるのだが、「昇月庵」では最小限の料理の説明に止め、静かに食とお酒を愉しむ。かといって寡黙な店主も、おもてなしの心は無言の仕草から伝わってきて、十分に心地良い。後は「なかしま」からは地方を、「昇月庵」からは東京の料理を感じる点で違いを感じる。「昇月庵」の店主が、東京の「こだま」で修業したからだろうか。

汁物は松茸の香りがしみ込んで、心と体が温まった。焼き物ののどぐろは、脂が乗っていて美味だった。鮑蕎麦は「昇月庵」のスペシャリテだ。海藻を練り込んで作った麺と煮鮑。鮑の肝ソースは最後、添えられたパンで拭ってきれいになるまで食べ尽くす。           ワインはグラスでの提供はないので、最初にシャンパーニュのハーフボトルから始まって、芋焼酎のロックと続き、最後は響と山崎を飲み比べて終えた。

ゴ・エ・ミヨの講評が共感できるものだった。          「東京の料理屋の香りがする。凛とした空間の中、目の行き届く範囲で無理をしない。大人であればこんな店を『行きつけ』としたい」                        

                            須磨 光

2023年10月29日 広島ゾーナイタリア イン・チェントロ「横山幸雄コンサートディナー」 

なかなか予定が合わず、久々の「横山幸雄コンサートディナー」。

今回の演奏は、11/3に福岡でコンサートがあるからかいつも以上に気合いが入っているようで、緊張感のある演奏を聴かせて貰った。    特にバラード2番とスケルツォ3番は圧巻だった!

福岡のコンサートは、四台ピアノコンチェルトを一度に弾くという超人的なプログラム。こんなことができるのは人間では横山幸雄くらいではなかろうか。これに付き合うオケもさぞかし大変なことだろう。  昔、ロシアのオケでロシア人若手ピアニストがラフマニノフのピアノ協奏曲2番を弾き終えた後、「やった!」といわんばかりにこぶしを握り締め安堵の表情を隠そうとしなかったことを思い出す。ハラハラする演奏で曲を愉しむことなどできなかった。尤も、オケもやる気なさそうに酷い2番ではあったが・・・。このときの指揮者は西本智実だった。

コンサート後のフルコースディナーは、同じテーブルに調律師の石橋誠氏とエリザベト音楽大学のピアノ科4年の母娘と一緒になり、色々と音楽話をして楽しく過ごすことができた。







                          

                            須磨 光

2023年10月12日 福岡「bekki」 

福岡市中央区警固の住宅街のマンション1Fにあるイタリアンレストラン「bekki」。

マンションのエントランスから入ってもたどり着けない。ぐるっと建物を一回りするつもりで探すと、建物奥にひっそりと目立たない入口が見つかった。

オーナーシェフの別城健太郎氏はフレンチからスタートし、イタリアの郷土料理を学んで、帰国後、都内のイタリアンレストランで料理長を務めた。2015年に故郷の熊本で「IL CASINO」をオープンし、ミシュラン一つ星を取得するほどの人気店となった。福岡に自らの名前を冠した2号店を開いたが、開業後すぐにコロナ禍に見舞われ、顧客作りには随分と苦労したようだ。まだ十分に福岡で浸透したとは言えず、良質でオリジナリティの溢れるイタリアンだけに頑張って欲しい。

特に印象に残ったのは、銀杏のリゾットと宮崎牛サーロイン・アンガスステーキ。銀杏とリゾットの組み合わせがよく、米も芯を少し残して柔らかすぎず絶妙の食感だった。宮崎のやまちくアン黒は、アンガス種と黒毛和種を掛け合わせた赤身肉だ。普段は、口の中でとろけるような柔らかいフィレとかが多いのだが、噛み応えのある赤身にしっかりとした旨味のあるステーキは新鮮だった。

勧められて飲んだノンアルコールビールの「シュラブビア」。    イギリス・ロンドンの「シュラブビア」は、添加物等で味を作っていく一般的なノンアルコールビールと異なり、実際のホップや大麦・小麦等を漬け込むことで作られており、ノンアルコールでありながらクラフトビールのような風味を愉しむことができた。

ドルチェは、チャイのパンナコッタ。               チャイの香りがして美味だった。                          

                            須磨 光

2023年10月8日 映画・ドラマ・本「アナログ」「何曜日に生まれたの」「卑弥呼」 

10/7、タカハタ秀太監督の新作「アナログ」を映画館で観た。                                                  ビートたけし原作の大人の(あるいは年寄りの妄想する)ラブロマンスで、途中からラストが予測できて意外性はないし、また登場人物がすべていい人ばかりで安心できるストーリー展開となっている。この辺り、公開時期の近い北野武監督作品「首」での登場人物すべて悪人という設定と対比が面白い。ただ、ヒネリのないラストやすべていい人という設定は、実のところ悪くない。そもそものコンセプトが刺激ではなく、ゆったりとした感動だからだ。緩い展開の中で小さい感動を積み重ね、予想を裏切らない感動のピークがラストにくる。予定調和での大団円が心地よい。主役の二宮和也・波瑠と脇を固める両ケンタ(桐谷健太・浜野謙太)とリリー・フランキーといったキャスト陣は良かった。特に、セリフは少ないけど、リリー・フランキーの存在感は素晴らしかった。ゆったりとして刺激の少ない展開だが、途中でダレるところは皆無で、退屈するシーンはなかった。良作と思う。

10/8、テレビドラマの「何曜日に生まれたの」の最終回を観た。このドラマは登場人物ごとに、想像外のエピソード展開が続くいかにも野島伸司らしい脚本なのだが、ラストだけは途中から予測できてしまう安心の大団円だった。この辺、共通点があって面白いね。野島伸司は、過去に「高校教師」や「人間・失格」、「ひとつ屋根の下」などの話題作を次々と出してきたのだが、近年は期待外れが多く才能が枯れたかと思っていたが、この「何曜日に生まれたの」で完全復活だ。洒落たセリフ、練られた伏線、想像が追い付かない怒涛の展開。飯豊まりえ、溝端淳平、シシド・カフカ、早見あかりといったキャストの演技も素晴らしかったが、中でも陣内孝則が良かった。脚本のキャラクターに合った、いい味を出している。演出や音楽も良くて、オープニングの実写からイラストに変わっていく映像に、60年代の洋楽「Bus Stop」が流れるシーンは、何度見ても引き込まれる。近年で最高のドラマ作品の一つではないだろうか。大作ドラマの「VIVANT」も面白かったが、最高はこの「何曜日に生まれたの」だ。

「警部補ダイマジン」も面白かった。三池崇史監督はドラマの演出の方が合ってるのかもしれないが、リチャード・ウーの原作は何でもいいよね。連載中の漫画「卑弥呼」も面白い。大河ドラマの「どうする家康」は、脚本がちょっと、いやちょっとどころではないのだが、残念。頑張っているキャスト・スタッフが可哀そうだ。映画の「レジェンド&バタフライ」もそうだが、脚本の古沢良太は時代劇が向いていないのではないだろうか。まあ、映画監督の原田眞人も、「検察側の罪人」の前年の作品「関ケ原」が同じ監督かと思うくらい駄作だったので、時代劇を不向きと思っていたところ、2021年の「燃えよ剣」では原田眞人らしいスタイリッシュな演出も見えて良かったから、この先どうなるか分からないけど。原田眞人は、時代劇になるとオーソドックスな演出を意識しすぎてつまらないのだが、「燃えよ剣」では良いところも見えたので、もっと思い切って吹っ切った格好いい時代劇を撮って欲しいな。                                              須磨 光

2023年8月31日 広島「リュニベル」 

今月2回目の「リュニベル」。                  前回と同じ「比婆牛を味わい尽くす特別コース」なのだが、私以外はメンバーが異なるので同じ内容でいいよと伝えていたのだが、シェフの厚意でメニューはがらりと変えてくれていた。

比婆牛を使った超ミニハンバーガーもあって、見た目も味も堪能できた。カウンター席を予約していたのだが来広したスーパースターの希望で、2階席に移ることになった。シェフと語りたかったのに残念などど軽口を叩いてしまったものだから、気を使わせてしまって、シャンパーニュのボトルをプレゼントしてもらった。申し訳ないことをした。

ところで階下のスーパースターだが、もうこれはカリスマ的人気の知らない人がいない歌手だと思っていたのだが、なんと30歳になる長女は知らなかった。ジェネレーションギャップを実感することとなった。


      比婆牛を味わい尽くす特別コースメニュー

★鱧/ガスパチョ                                                  ★ロース/ロール                                                      ★合わせ/スライダー                                         ★前バラ/ロワイヤル                                                 ★外モモ/アッシェパルマンティエ                                              ★うっかりカサゴ                                             ★フィレ肉/グリル                                         ★ささみ/ご飯もの                                                                                                   ★チョコ                                       ★無花果                                                 ★小宇宙プリン                                                         

                           須磨 光

2023年8月23日 「イマージュ」 

横川にあるケーキ店「イマージュ」。

桃を丸ごと使った贅沢なケーキ。大きくずっしりと重い。

桃全体をコーティングして、桃本来とは別の甘味と食感を感じられ、桃部分だけだとあまり感じられないが、土台を一緒に食べるとケーキ感を強く感じられて、また違った美味しさを味わうことができた。

罪悪感もあるが、たまにはいいよね。












                            

                            須磨 光

2023年8月22日 ホテルグランヴィア広島「瀬戸内」 

瀬戸内の季節の特別メニュー、和牛重と鰻重をランチで戴いた。

和牛と鰻、両方いっぺんに食べれるなんて贅沢だよね。       どっちにしようか迷う必要がない。

ちなみにご飯は量を選ぶことができる。              糖質のことを考えて、ちょっと悲しいがご飯は少量にした。

味が格別というわけではないが、十分に美味しくて満足できる。   コストパフォーマンスはかなり高いと言える。



                            

                            須磨 光

2023年8月8日 広島「天甲本店」 

天ぷらのコースを食べたくなった。                                                  吉島にある「天よし」は旨いが、オーソドックスな天ぷらを食したくて天甲本店を予約する。

正直、どのタネも美味しいと感動するものは、締めのご飯ものを含めてなかった。車海老の足が一番旨かったかな。

サービスも不快なところはまったくないが、なかしまのような客に喜んでもらおうというホスピタリティや清潔感は感じられなかったし、サービスや清潔感も悪くはないが一言でいえば慇懃といった印象だった。天甲本店はミシュラン広島版2018で1つ星、ゴ・エ・ミヨ2020で2トックを得ているが、私の感性には合わなかったということなのだろう。                                   須磨 光

2023年8月3日 広島「リュニベル」 

今日はある方のお誘いで、久々の「リュニベル」。

リュニベルは広島県の推進する比婆牛フェアに参加して、今月は比婆牛を用いた特別メニューを展開している。              比婆牛は1000年以上続くブランド和牛で、生産数が少なくなかなか市場に出回らないことから、希少価値が高いとされている。      遺伝的にMUFA(脂肪の口どけ)の割合が高く、その高さはGI登録制度(地理的表示保護制度)にて国内唯一認められている。*リュニベル「比婆牛を味わい尽くす特別コース」メニューより抜粋。

メインのシャトーブリアンよりも、前バラを使った雲丹、スジと鮑が特に印象に残る。ダキを混ぜ込んだ、とうもろこしご飯がとても美味しかった。


      比婆牛を味わい尽くす特別コースメニュー

★外モモ/貴陽                                                  ★とうもろこしスープ                                                      ★前バラ/雲丹                                         ★カンパチ                                                 ★スジ/鮑                                              ★外バラ/ラビオリ                                             ★甘鯛                                         ★フィレ肉/シャトーブリアン                                               ★ダキ/とうもろこしご飯                                                     ★チョコ                                       ★果物                                                 ★小宇宙プリン                            

                            須磨 光

2023年7月16日「カレラ・ピノノワール・ジェンセン 2018 カリフォルニア」 

オーナーのジョシュ・ジェンセンの名前を冠したカリフォルニアのロマネ・コンティと呼ばれたカレラ。                 そのフラッグシップワインがこのジェンセンで、6つある畑の中でも最も最初に植えられている。

ロバート・パーカーが「新世界のみならず地球上で最強のピノ・ノワールのスペシャリスト」と評したカリフォルニアの頂点ともいえるピノ・ノワール。

ワイングラスに注ぐとルビーレッドの色が輝く。ブルゴーニュのような上品な酸味と果実味。エレガントな味わいを愉しむことができた。

WE95点、WS91点の高評価を得たワイン。










                            

                            須磨 光

2023年6月24日「marco chocolaterie」 

長女から父の日のプレゼント。

「marco」のショコラ。

オーナーの中野元之氏は、カカオ由来の原材料にこだわった本物志向のショコラを目指している。                                       小便小僧やアヒルなど面白い形や、ナッツやドライフルーツを加えた板チョコの破片。一見、見た目優先のキワモノチョコにも見えるが、食して見るとオーナーの言う通り、本格的なショコラだ。良質なカカオの香りと味の後に、フルーツの味が追いかけてくる。複雑な味と食感を楽しむことができるとても美味しいショコラだった。                                            須磨 光

2023年5月22日「SOLARIS ソーヴィニヨン・ブラン 2021 マンズワイン」 

久々飲んだマンズワインのソラリス。               今日は白ワイン。

手軽な価格のワインで、期待以上に旨かった。

デカンター・ワールド・ワイン・アワード2023で金賞、日本ワインコンクール2022の 欧州系品種・白で金賞を得たワインだ。      日頃、この手のコンクールの賞は当てにしていないが、豊かなアロマと爽やかな酸味を感じられて、これぞソーヴィニヨン・ブラン、お値段以上のクオリティだった。












                            

                            須磨 光

2023年5月1日 広島「ilnebbio」 

お気に入りのイタリアン、「ilnebbio」。

今日は世話になったピアノの先生を招き、会食を共にした。                                       昔話に花が咲き、会話と共にシェフの芸術的で美しい盛り付けと繊細で奥深い味を楽しんだ。

ドルチェを含め、毎回同じ料理がないと言うのも嬉しい。いつものようにシェフお任せの特別ディナーコースを戴いた。            いつも感動のある料理に感謝したい。                                             須磨 光

2023年4月9日 広島「hiroto」 

富士見町・地蔵通りにあるフレンチの店「hiroto」。                                           中四国地方のフレンチレストランでは、唯一のミシュラン二つ星を得ている。                               オーナーシェフの廣戸良幸氏は、イギリスの「Hibiscus」でクロード・ボシ氏に次ぐ二番手シェフとして活躍した後、広島にて「hiroto」をオープンした。

料理は少量多皿スタイルで、素材の味を活かした繊細な味付け。リモージュの皿に盛りつけられた数々の料理は、見た目も美しい。

さて、ここで数十年ぶりの驚く再会があった。以前、ホテルグランヴィア広島のリモージュでシェフソムリエを務めていた的場氏だ。     「須磨さんですよね」と声掛けされたものの、思い出せない。名前を聞いて驚いた。当時の的場ソムリエがすらりとした黒服が似合う紳士だったのに、今や恰幅のよく人当たりのよいオジサンになっていて、まあ互いにだが過ぎ去った年月の長さをかみしめる。               グラスで、料理と合うお勧めのシャンパーニュ、白、赤と提供してくれて、そのセレクトはさすがだ。料理もワインも十二分に楽しめた。

少量生産で入手困難な榊山牛を使っていることでも有名だが、生産者との信頼関係が築けていることが窺える。個体識別番号の記載された榊山牛証明書も見せてもらった。

オーナーシェフも廣戸氏は、寡黙だが帰り際には挨拶に出てきて頂き、名刺も頂戴した。店の雰囲気は、格式張っておらずカジュアルに楽しめる。広島が誇るべき名店の一つであることは間違いない。                                     須磨 光

2023年3月22日 広島「DIRETTO」 

広島では珍しい薪焼きイタリアンの店「DIRETTO」。

ロゼワインがお勧めと言われたが苦手の為、オレンジワインにしてもらった。                               夜はエントランスがライトアップされ、大きなガラス越しに店内を眺めることができる。                          店内もカウンター越しに見える炎が、雰囲気を醸し出している。

店の作りはとても良いのだが、肝心の料理はコースの全てで自分の口には合わなかった。                          パスタやドルチェも含めて感動すべき料理がなく残念な思いをした。                             須磨 光

2023年3月3日~4日 箱根「金乃竹 塔ノ澤」 

箱根の山の中腹にある橋を渡った閑静な宿、「塔ノ澤 金乃竹」。

総料理長の岩井浩司氏、料理長の三枝俊一氏による料理。刺身の質も悪くなく美味しくは頂戴したが、どれも平凡で取り立てて印象に残る夕食での料理はなかった。日本酒飲み比べも、個性に差がなくこれはという銘柄がなかった。                            ワインはオーパスワンの2018年当たり年があり、これを飲んだが、これはさすがに美味だった。ただ、飲み頃はまだ早いかなと。もう数年寝かしたら、香りはより芳醇に、味にも深みが出たことだろう。

感動したのは朝食。粥が最高に旨かった。五つ星お米マイスターの土屋一氏が厳選した山形県のブランド米、つや姫を使って、釜で時間をかけて作った粥が夕食・朝食通して一番だった。

宿泊部屋は素晴らしい。部屋の露天風呂も緑の景色とそよ風が心地よく快適に過ごすことができた。                 須磨 光

2023年2月25日「シャトー・ブラーヌ・カントナック 2009 マルゴー」 

最近、家で飲んだ赤ワイン。

シャトー・レオヴィル・バルトン 2013 サンジュリアンと、シャトー・ローザン・セグラ 2013 マルゴー、どちらも2013年の赤だが、香り・複雑味ともに乏しく平凡な味だった。飲み頃に入っていた筈だが、少し早かったのかもしれない。

その後飲んだシャトー・ブラーヌ・カントナック 2009 マルゴーはとても美味しかった。

まず抜栓した瞬間、華やかな香りが立ち込める。          口に含むと、芳醇な香りと旨味が広がる。               フルーツやジャムの甘い香りとバニラのエッセンス。        甘酸っぱくしっかりとしたタンニン。             JS93、WS92、WA91の高得点を得ているが、飲み頃に入っており評価以上のクオリティを感じた。                   飲み終えた後にも余韻が続き、複雑な味わいを楽しむことができた。 これぞボルドー!






                            

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2023年2月17日「バレンタインチョコ」 

神奈川にいる次女から、バレンタインチョコを貰った。

帝国ホテルのチョコで赤い立派なケースに入って、リボンがかけられていた。

3種類の味が楽しめ、二段重ねで入っている。           毎日、1本ずつ食べることにした。

子どもたちが気に掛けてくれるのは、やはり嬉しいものだ。











                            

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2023年1月18日~19日 松山「道後館」 

今回、およそ30年前に初めて訪れた道後温泉の「道後館」へ再訪した。松山とは結構縁があり、講演の仕事やショパンコンクールinASIAの地区予選等で訪問したこともあるが、今回は純粋に温泉と料理、ついでに観光を楽しむだけの旅だ。道後温泉の風情が好きで、観光旅行でも何度か訪れている。久々の道後館は、別邸朧月夜のような豪華さはなく施設も老朽化しているが、それでも部屋付きの露天風呂を堪能し、部屋で食する料理は別邸朧月夜とは比較にならぬほど美味で、リラックスして小旅行を楽しむことができた。まずは、昼飯に名物の「鯛めし」を頂く。

谷本伸介総料理長の料理は、見た目も味も創意工夫が凝らされており、すべてが美味しかった。四季の前菜には枕草子からとった「冬はつとめて」という題が付けられている。早朝の石鎚に広がる雪や霜が降る「白」い世界の中に、そこで生活を営む人々の「温かみ」を、愛媛の四季の情景に重ねて表現しているとのことだ。鮑や伊勢海老、ワタリガニはどれも美味だった。ただ、愛媛の山に登る伊勢海老の皿は、ちょっとシュールで総料理長の感性に思わず笑ってしまった。お酒は「魔王」のロックを呑んで、日頃よりも酔いが早く食後そのまま寝てしまった。        

夕食メニューは以下の通り。

★食前酒 蔵元の柚子酒                        ★前菜 冬はつとめて・・・前菜盛り                              ★造里 瀬戸内の旬のお造り                               ★煮物替り 伊予牛海栗巻き 瀬戸内鮑 肝ソースで                       ★焼物八寸 雪銀河焼物八寸                      ★箸休め 季節のもの                       ★温物 地魚炭焼き煮付け 銀餡かけ 海山からの出合い                              ★酢物 ワタリガニと愛媛県産マス 伊予酢ジュレ                              ★御飯 鯛飯 道後館オリジナル                 ★香の物 三種盛り★水菓子 季節の甘未

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2022年12月27日 広島「il nebbio」 

こちらのメニューにもオマール海老が使われているが、リュニベルとはまた異なる調理法で、それぞれの創意工夫を愉しめた。

サービスはお世辞にも洗練されているとはいえず、また師走で忙しいせいか前回は感じられた一所懸命さも失われて、そこは残念なところであったが料理は間違いなく一流だ。                 芸術的ともいえる料理の数々を堪能できるのは至福のひと時だ。

飲物はプリマキュヴェブランチャコルタ・ブリュット/モンタロッサをボトルで注文し、その後は白がプレーニオ・レゼルバ/ウマニ・ロンキと、オレンジワインのデッシミス/ヴィエ・ディ・ロマンスと続き、最後は赤のバローロ/フォンタナ・フレッダで締めくくった。


特別ディナーコースメニューは以下の通り。


★ズワイガニとコカブ キャビア添え                        ★北海ホタテと北海道ホワイトアスパラ サーモンのジェラート                              ★フランス産七面鳥のインサラータ パルミジャーノのブディーノ                               ★山陰浜田産天然ヒラメのピスタチオ風味                       ★オマールブルーと菜の花のトマトソース イカ墨のタリオリーニ                      ★かぼちゃとサルシッチャのラヴィオリ                       ★島根熟豊和牛フィレ肉のグリッリア トリュフとマルサラソース                              ★パンナコッタ ラフランス ランブルスコ                              ★ティラミス×ミッレフォーリエ                            

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2022年12月25日 映画とドラマ 

映画は3本。

まずは2020年制作の米映画「アンテベラム」。ゲットアウトやアスのプロデューサーが放つパラドック・スリラー。とにかく視点の切り替えとラストのどんでん返しが見事!見始めて最初に感じるのは映像の美しさ。特に黒の映像が美しい。黒人の肌、黄金色に輝く稲穂、月夜灯りの景色、黒が上手く使われている。物語は、現代社会と150年以上前の奴隷制度が残る南北戦争時代とを交互に描いて進行していく。人種差別研究の第一人者ヴェロニカ・ヘンリーと黒人奴隷のエデンをジャネール・モネイが好演している。監督はジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツの2人が務めており、映像美に加えサスペンス要素もあり最後まで飽きさせない。人種差別撤廃活動をするヴェロニカと奴隷のリーダー格エデン、ルーツものかタイムスリップかと想像するが、ラストではまさかの事実が明らかとなる。奴隷の悲惨さは無論、現代社会でも何気ない悪意や偏見、差別が日常の中で垣間見られ、全体的に重苦しい空気なのだが、最後に主人公が馬に乗って疾走する様が悪意や偏見、差別を振り払って自由を手にしようとするように見えて爽快感と希望を感じることができた。素晴らしい作品だった。

「ラーゲリより愛をこめて」は主役に二宮和也を迎え、瀬々敬久監督がメガホンをとった。瀬々監督は、前作の生活保護と震災をテーマにした「護れなかった者たちへ」で、原作となる中山七里の同名小説にはないラストシーンを加え、泣き所を強要されているような作為性を感じてしまったので今回も心配していたが、本作ではラストまで自然体で没頭することができた。「タング」とは一転、二宮和也の演技力が見事で中島健人も役柄にはまっていた。良い作品に仕上がっている。それにしても動物を使うのはずるいよな。犬のシーンでは当然の如く号泣させられる。

最後はジェームズ・キャメロン監督の「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」。森から海へ舞台を変えた第2作なのだが、前回よりもメッセージ性が強くなっており、そこが単純に映画を楽しむ妨げとなった。鯨のような海洋動物の命は大切だといいつつ、漁をしてほかの生き物は食料となる。知性の有無ということで区分しているようだが、どこまで知性があれば良いのかその線引きに危うさを禁じ得ない。映像は美しく4Dも控えめで進行を妨げることはなく、この映画は4DIMAXで何も考えず映像美を楽しむのが一番なのだ。

ドラマでは、2018年制作の中国歴史ドラマ「鳳凰の飛翔」全70話を5日間で見切った。天下帰元の小説「凰権」をシェン・イエン監督がドラマ化した。全編、映画の撮影手法を用いて贅沢に作ったテレビドラマということで、映像や舞台、衣装、風景の美しさは見事というほかない。主役の2人、チェン・クンはイケメンなだけでなく様々な面を表現する素晴らしい演技を見せ、男装もするニー・ニーは中性的な魅力があり、この役柄に適任だった。登場人物の大半が亡くなるか罪を犯すという重く暗い話しだが、最後まで面白く観ることができた。架空の時代設定だが、明の永楽帝が健文帝から帝位を簒奪した靖難の変をモデルにしたように思えるが、細かい伏線の回収、毎回の種明かしも見事で役者の魅力に加え、ストーリー展開も最後まで見事だった。

                                                             須磨 光

2022年11月30日 広島「リュニベル」 

「リュニベル」で、オマール海老の特別コースを戴いた。                        口開けはシャンパーニュ。アンリ・ジローのエスプリ・ナチュールから始まって、白ワインはフィリップ・パカレのモンテリ・プルミエ・クリュ・シャートー・ガイヤールと、料理とのマリアージュを愉しむことができた。しかし、今回もっとも美味だったのはオレンジワインだ。  これまでオレンジワインには良い印象を持っていなかったが、初めて美味しいと感じた。少量生産で日本にはあまり入ってこないとのことで、今回はたまたま入手できた1本とのこと。次はいつ出会えるか、これも楽しみのひとつかもしれない。                    それにしても、最近のオマール海老の価格高騰は困ったもんだ。


オマール海老の特別コースメニューは以下の通り。


★トリュフミニタルト                        ★出汁                              ★鰆                               ★オマール海老のフラン                       ★国産トリュフのリゾット                      ★オマール海老のポワレ                       ★広島牛                              ★チョコ                              ★紅マドンナ                            ★小宇宙プリン                                                         


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2022年11月23日 東京銀座「薪焼 銀座おのでら」

銀座にある薪焼フレンチの店「薪焼銀座おのでら」。ミシュランで2022年に続いて最新の2023年版でも星一つを獲得した人気店。       カウンター越しに薪の炎が見えて雰囲気は抜群である。個室もあるがカウンター席でこそ、この店の醍醐味を味わうことができる。

この日は、副料理長の安達直生さんと若い(確かまだ21歳くらい)料理人の二人が料理を担当したが、二人とのおしゃべりが楽しくてずっと喋りっぱなしだった。料理以外でも客を楽しませようというホスピタリティに溢れている。

ワインはボトルもあるが、お任せのペアリングコースが絶対のお勧め。支配人でソムリエでもある大橋哲藏さんが料理に合わせて、料理一品ごとにワインをペアリングしている。最初のシャンパーニュから始まってデセールに合わせたデザートワインまで、よくセレクトされていると感心する。 ペアリングコースはグラス10杯出てくると聞いて、そんなに飲めないよと言ったのだが、通常よりも少量にして色々なワインを愉しむ趣向にしているとのこと。これは素晴らしい。大橋さんのサービスで出された赤と、気に入った白のお代わりを合わせると12杯飲んだことになり、いくら一杯あたりが少なめとはいえ、随分と酔っぱらってしまったが久方ぶりに心地良い酔いだった。写真でスーツ姿の男性が支配人の大橋さん。炎を背にした写真で手前側が副料理長の安達さん、奥が若い料理人である。

料理はどれも美味しい。薪の香りがほんのりと、主張しすぎることなく素材の味を活かしている。野菜は見た目も美しく新鮮だ。肉はあか牛と羊が出たが、どちらも柔らかく肉の旨味が堪能できた。羊はラムとマトンの中間にあたるホゲットを使用しており、脂身と赤身が絶妙のバランスでとても美味しかった。パンも薪で焼いている自家製だ。21歳の料理人が担当しているという。香ばしいパンに仕上がっている。桜海老のご飯も締めには最高だった。評判のチーズケーキは濃厚な味だったが、前評判で聞いていたほどではなかったかな。あえてこれだけを買いたいとは思わない。  最後に、焙じ狭山茶と一緒に出てきたショコラは、茶の香りがして美味しかった。

ディナーコースメニューは以下の通り。

★キャビア 海苔                                                          ★毛蟹 トマト                                                           ★畝田さんからのお野菜                                                       ★里芋 ムル貝                                                           ★鰤 春菊                                                             ★熊本 あか牛(阿蘇王) スパニッシュレタス                                                                                                         ★ホゲット ちりめんキャベツ                                                    ★桜海老パエージャ                                                         ★焼きマシュマロ                                                           ★薪焼チーズケーキ                                                         ★焙じ狭山茶                                                            

                                                             須磨 光

2022年10月19日 広島ゾーナイタリア イン・チェントロ「横山幸雄コンサートディナー」

広島県立美術館の中にあるイタリアレストラン「ゾーナイタリア イン・チェントロ」にて18:45から横山幸雄のピアノコンサートを堪能した後、19:45からフルコースのディナーが供された。

1990年の第12回ショパン国際ピアノコンクールにて、日本人として史上最年少での3位入賞(1位なし)し、併せてソナタ賞も受賞している横山幸雄の演奏を目の前でまさに息遣いが聞こえるような距離で聴くことができるのはこのうえない贅沢といえるだろう。

また、今回は「ショパン全曲演奏会」のシリーズ中でもあり、ピアノコンチェルト2番op.21も曲目に含まれており、ピアノコンチェルトのピアノバージョンが聴ける稀有な機会となった。この曲はショパンコンクールで3位入賞したときの曲でもあり、目を瞑ればショパコンファイナルを聴いているかのような気分を味わうことができた。何という贅沢な時間。ピアノコンチェルト第1番op.11のときは、他のコンサートと重なって行けなかったのが心残りである。

プログラムは以下の通り。

★コンチェルトop.21                                                          ★ノクターン嬰ハ単調遺作                                                       ★ワルツ14番遺作                                                           ★アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズop.22

                                                             須磨 光

2022年10月5日 広島「RESTAURANT TAILLA」

久々、中区十日市町の裏通りにある隠れ家フレンチ「タイラ」に行ってきた。2名なのでカウンターを希望したが、今はカウンター席はなく無理くりに卓をくっつけて作ってもらっていた。大きなテーブルがカウンターくっいており居心地が良いとはいえず、変なことはしないに限ると反省した。

「タイラ」の料理は繊細さと野趣味が同居しているところが魅力的で、最近のフレンチに多い大皿に小さな料理が盛り付けられ、お洒落だが最初のアミューズが一番美味しかったようなことはない。                                            ただ、本日のコースは繊細さの方が少し欠けたかなとの印象。名物のパスタもコースに含まれていなかったので少し残念。

デゼールは2種から選ぶのだが、どちらも食してみたいのでこれもわがまま言って、両方を盛り付けて頂いた。            須磨 光

2022年8月13日 広島「ilnebbio」 

中区富士見町にあるイタリアンレストラン「ilnebbio」。店の雰囲気はインテリアを含めて洒落ており趣きがあるのだが、大人数のグループ客も多く騒がしいので道路側に面した個室がお勧め。

店名はイタリア語で霧を表すnebbiaに由来しているらしい。オーナーシェフの谷口誠治さんはホテルサンルート広島のイタリアン「トラットリア ヴィアーレ」で料理長を務めていた人で、当時美味しいイタリアンの店として名をはせており、私も何度か足を運んだ覚えがある。         その後、同ホテルの総括シェフと支配人に就任し、2019年7月に念願の自分の店をオープンされた。                      満を持してということで、内装や料理にもシェフのこだわりが満載。料理はどれも美味しいだけではなく、独創性に溢れており、目でも舌でも楽しむことができる。ワインは豊富とは言えないが、リーズナブルなイタリアワインをグラスで味わえる。プリマ キュヴェ ブランチャコルタ ブリュットに始まり、エッダ2020とヴェル メンティーノ2021、赤はペル・パパ2012をチョイスした。

ティラミスは毎回アレンジしているということで、今回はアイスキャンディのような形をしていた。常に進化しようとするチャレンジ精神をうかがわせてくれて嬉しい。                                                       今、広島のイタリアンでは、一番お気に入りの店だ。

特別ディナーコースメニュー

★シマアジのマリネと水牛モッツァレラ                                                  ★ブラッドオレンジのグラニテ                                                      ★北海ウニとトウモロコシのパンナコッタ トマトのエキス                                         ★十勝産牛ほほ肉とクルミの米粉ブリック                                                 ★ゴルゴンゾーラとピンクペッパーのジェラート                                              ★山陰浜田産マグロのグリッリア 根セロリソース                                             ★ヨーロッパ産スカンピとイタリア産メロンのガスパッチョ                                         ★冷製カッペリーニ イタリア産キャビア添え                                               ★ラヴィオリ「アニョロッティ」                                                     ★島根熱豊和牛と無花果のロースト イチジク風味のバルサミコ                                       ★島根産桃・フランボワーズ・スプマンテ                                                 ★ティラミス

                                                             須磨 光

2022年8月13日 「TANGタング」9月1日「ブレットトレイン」9月29日「ヘルドックス」 

「TANGタング」は、原作が2016年のベルリン国際映画祭で「映画化したい1冊」に選ばれた「ロボット・イン・ザ・ガーデン」が原作で、ポンコツロボットと共にダメ人間が世界を旅するという設定に惹かれとても楽しみにしていた作品だ。                         ただ、期待が大きかったこともあるが観終わっての感想はガッカリ感が否めない。まずは世界を旅していない。CGを多用しているのだからもっと世界を拡げれば良かったと残念。二宮和也、満島ひかりといった芸達者が出演しているのに、その良さが引き出せていない。素晴らしかったのはCGで描かれたタングだ。声や仕草、二宮和也が演じたようだが、もうこちらは可愛くて愛おしい。コーヒーを懸命に運ぼうとするのだが、揺れて中身が皆こぼれてしまったシーンなどは愛くるしさ満載だ。話題作とあって、出演者たちがメディアに番宣で出ていたが、見どころを皆が口を揃えてとにかくタングが可愛いとしか言っていなかったのは、正直な感想なのだろう。三木孝浩監督なのだが、演出と脚本がちょっと不出来だったのかなとは思わずにいられない。

デビッド・リーチ監督の「ブレットトレイン」。こちらは最高に楽しめた作品だった。原作者の伊坂幸太郎は最も好きな作家の一人であり、原作となった「マリアビートル」も傑作だ。原作の疾走感やウイット、きかんしゃトーマスのうん蓄など良さを活かしつつ、映画ならではの世界観を創り上げていて素晴らしい作品に仕上がっていた。主演のブラット・ピットも良かったが、タンジェリン役のアーロン・テイラー=ジョンソンとレモン役のブライアン・タイリー・ヘンリーの兄弟ではないが兄弟の二人が、原作も思い起こさせて絶妙だった。                   日本と違う世界に戸惑うという声も聞かれた。新幹線と思われる列車や実名の駅ながら明らかに異なる景色に違和感があるというのだが、何をか言わんか。フィクションの娯楽映画でリアルに描いて何が面白いと言うのか。外国人の無知からくるトンデモ日本という指摘もまったくの的外れだ。解ったうえで、あえて別の世界観を構築し作品を面白くしている。アニメキャクターのモモもん車両が登場したり、日本の懐メロがBGMに多用されたり、随所によく日本を勉強し、日本リスペクトも感じられた。                                      真田広之が本格的に登場するのは最後の最後で、出番自体は少なかったのだが、ある意味美味しいところを全部持っていってしまったと言える。  ブラット・ピットたちがそれまで体を張って様々なアクションをしていたのはすべて前座で、真田広之が満を持して真打登場となっている。    とにかく真田広之のエルダーがカッコいい。

「ヘルドックス」は、スタイリッシュで疾走感あふれる展開と岡田准一などの派手なアクションシーンで飽きさせない。              原田眞人監督は現代劇が合っているのだろう。「検察側の罪人」も、とても良かった。ラストシーンなど印象的でスタイリッシュだったのだが、これが時代劇となると良さが全く出てこない。同じ岡田准一を主役に据えた「関ケ原」は退屈な凡作に終わっている。オープニングの回想シーンからして何故にこんなつまらない演出をするのかガッカリ感が強かった。ヘルドックスは、登場人物の闇落ちした理由がどうにも納得できない。主人公の好きだった女子高生が殺されたというのもなんだかなだが、象が象牙の売買の為に犠牲になっている。それで密売ルートとなる組織を潰す為に自らを犠牲にするというのだが、象の為に自らの命も厭わないというのは、まあ価値観それぞれだから置いといて、末端の組織ひとつ潰したところで何の問題解決にもならないというところがどうにも納得できない。大竹しのぶが演じていた息子がヤクザの犠牲になったというのだけは納得感があったのだが、他はどうにもスッキリしない。映画の時点でどうにかならなかったものか。                          ただ、映像自体は十分に楽しめる作品となっていた。                                     須磨 光

2022年7月27日 広島「寿司稲穂」 

中区銀山町にある「寿司稲穂」。最大12席ほど座れるカウンターと、4名までの小さな個室が奥に一つあるこじんまりとした店。場所が歓楽街にあるので、カウンターには同伴客も多く、私が行った際はかなり下世話で騒がしかった。楽しく賑やかにというのはいいのだが、品にかけては興覚めだ。今回は奥の個室(それでも会話の内容まで聞き取れる)だったので、まだ良かった。

季節の先付や椀物、焼き物、留椀、デザートに握りが全部で10貫、コースで提供される。焼酎ロックと共に頂いた。瀬戸内海の海の幸と広島県産の米に拘り、鰻の焼き物が評判通りの味で、握りもエビやウニが美味だった。                           須磨 光

2022年6月24日 広島「リュニベル」 

白島の「リュニベル」。カウンター席もシェフとの会話も楽しめ、2人だと1階のカウンターが心地よい。

変わらず料理もワインも美味しい。やはり牛肉は絶品だな。柔らかいだけでなく肉の滋味をしっかりと味わえる。

今日も楽しい一夜を過ごすことができた。                                          須磨 光

2022年6月19日 三原市芸術文化センター ポポロ「小林愛実オールショパンピアノリサイタル」 

2021ショパンコンクールで4位入賞した小林愛実さんのピアノリサイタルに行ってきた。

2021ショパンコンクールは1次からずっとネット配信で観続けていたが、最終的に反田恭平さんが2位、小林愛実さんが4位に入賞と日本人が大活躍したコンクールとなった。反田さんは1位も十分狙えると思っていたので、2位という素晴らしい結果が喜ばしい反面、残念な気持ちも否めない。

ファイナルでのピアノコンチェルト1番の第一楽章は反田さんが一番だった。しかし、二楽章のロマンスは小林さんが誰よりも素晴らしかったと思う。三次予選での小林さんの演奏は圧巻で胸を打つピアニッシモ。演奏を聴いて落涙を禁じ得なかった。小さく美しい音を響かせたら天下一品に相違ない。

今回のオールショパンリサイタルの曲目は「24の前奏曲op.28」と「スケルツォ」全曲で、小林愛実を堪能できる選曲となっている。

渾身の熱演だったが、出入りの際に具合が悪そうな様子で、もしかしたら腰を痛めているのかもしれない。ショパンコンクール以降、全国で引っ張りだこで公演やメディアへの出演が絶え間なく続き、体調維持も大変と思う。良いパフォーマンスを続ける為にも、健康には注意して欲しいと一ファンとして願わずにいられない。そうした中でも盛大な拍手に応えてアンコールを3曲弾いた。日本の誇る宝の一人であることは間違いないだろう。

アンコール曲                            シューマン:アラベスクop.18 ハ長調               ショパン:ワルツ第5番op.42                  J.Sバッハ:パルティータ第2番 ハ長調 BWV826 シンフォニア

                            須磨 光

2022年5月17日 広島「フレンチダイニング 尾崎」 

中区小町の細い路地沿いにある老舗の洋食店。フレンチ一筋45年とのこと。年季の入った店舗で、老夫婦の2人が店を営む。

料理はバターをたっぷりと使った古典的な調理。エスカルゴはバターとガーリックの味で、これは当然に美味しい。魚料理もバターソースのムニエルが濃厚な味付けで、まあ美味しかったが、野菜はイマイチ。メイン料理は牛フィレ肉の煮込み料理だったが、筋が多くナイフでも口の中でも切ることに一苦労させられた。フィレでなくとも、あるいは牛でなくてもよかったのではないか。

デザートはケーキやアイスクリーム、フルーツなどが盛り合されていたが、ケーキは業者から仕入れた大量生産品の感が否めず、これはシンプルに台湾パイナップルとアイスクリームだけにした方が絶対に良かったと思うのだが・・・。

さて、本日この店を訪れた目的はヤマハの古いオルガンを見ることにあった。店主曰く、捨てようとされていたのを譲り受けて店に置いているのだとか。現在は「YAMAHA」表記となっており、カタカナで「ヤマハ」と書いてあるのは珍しい。調べてみると、ヤマハの前身である日本楽器製造株式会社時代に、ヤマハ発動機と共通のカタカナ表記の「ヤマハ」ロゴも使われているが、1987年の社名変更時にはカタカナロゴは廃止されているので、少なくとも35年以上前ということになる。

アンティーク的価値はなくとも、こうして古い楽器が古い店に残されていること自体が貴重であり、当時このオルガンを演奏した人や聴いた人々に思いをはせる。古い人が保存し、そして古い人間がこれを眺めにやってきたという次第。                     須磨 光

2022年5月3日 広島「リュニベル」 

先月に続いて2回目の「リュニベル」。                        ゴールデンウィーク中も休まず営業していて、頑張っているシェフを応援したくなる。今日は2Fの自分達のほかに1Fにも1組入っていたので、前回は子育て中でお休みだったソムリエの奥様も手伝いに来られていた。奥様とはシェラトングランドホテル広島でご一緒だったとのこと。フランスやイタリアの美味しいワインは奥様のセレクトによるものだろう。ワインも自然派ワインに拘っているが、料理もノンケミカルでより自然なものをとシェフは考えており、シェフとソムリエ、夫妻の見事なまさにマリアージュを体現している。料理とワインが一体化して完成品を成しているといっても過言ではなかろう。            パンは手作りではなく意向を伝えて大柴にあるアヴェックルソレイユのバゲットを用いているとのこと。パティシエはいないとことでデセールもすべてシェフの作品だが、テイクアウトできるケーキもたまに作ってくれて、中でも「ショコラテリーヌ」は絶品だ。ほんのり温めて食すと大変美味しい。今回はデセールの一つとして新作の「ピスタチオバスクチーズケーキ」も出してもらった。                メイン料理は前回の比婆牛とは異なる肉だったが、今回も変わらず大変美味しかったので牛肉の食材だけではなくて、やはり手間をかけた調理がこの味を成立させているのだろう。前回は少し芯を感じたご飯ものだが、今回のムール貝のご飯はちょうどよかった。          クラシックなフレンチはクリームやバターを多用するが、イタリアにも近く地中海に面したニース料理はさっぱりとオリーブ料理で仕上げるのが特徴で、ウニや蛸など魚介類もよく使うので食べやすく日本人の口に合う。大昔にニースを訪れた際に屋台で食べた岩牡蠣やレストランのオープンテラスで食べた昼食でのニース風サラダやシーフードとワイン、煌めく陽光とエメラルドグリーンの海を思い出して感傷的になったのは歳をとったせいだろうか・・・。そういえばお薦めの白ワインを尋ねたら、これが一番といって持ってきてくれたのがデキャンタに入ったテーブルワインだった。何十年も昔のことでも、味覚・視覚・触覚・臭覚といった感覚的なものは体が覚えていていつまでも忘れることがない。「リュニベル」でも夏になると岩牡蠣が食べられるだろうか。また、すぐにでも行きたくなる店の一つだ。            須磨 光

2022年4月28日 広島「桂蘭」 

中区十日市にある中華料理の「桂蘭」。              1Fはテーブル席で、2Fから4Fには2名から56名まで大小様々な個室が7部屋用意されている。                        リーズナブルな価格設定で人気の店だ。予約して行ったのだが、本日も満席となっていた。これまでは何度かテイクアウトサービスを利用したことがあるのだが、店で食するのは初めてだ。ここのテイクアウトはフカヒレのスープや鮑料理、北京ダックといった高級食材も用意されていて、手軽に家で本格的中華を味わうことができるので便利だ。                       

料理は「桂蘭コース」(11,600円)を注文しておいた。                         最近の中華コースは一人ずつに分けられて出てくる店が増えた中で、ここは昔ながらの大皿で盛り込まれており、それを自分たちで取り分けるスタイルだ。今では懐かしさすら感じるのだが、料理も奇をてらったものではなくクラシックスタイルといっていいが、本格的な味付けでどれも美味しい。誰もが好みに合う万人向けの調理と言えるだろう。   中でも一番気に入ったのは「衣笠茸のスープ」と「湯葉春巻」だが、「北京ダック」や「有頭海老のチリソース炒め」なども美味しかった。                   

★前菜盛合(アワビの冷製、伊勢海老、その他)                     ★衣笠茸のスープ                            ★フカヒレの姿煮 青梗菜添え                  ★揚物盛合(湯葉春巻、野菜の天ぷら、魚の天ぷら)          ★北京ダック                            ★アワビのカキソース炒め                             ★蟹のXO醤炒め                           ★有頭海老のチリソース炒め                     ★蟹レタスチャーハン                        ★杏仁豆腐&フルーツ&胡麻団子  

量は十分だったのだが、少しだけ食べたくて「おこげの五目あんかけ」を追加注文して、つい食べ過ぎてしまった。       須磨 光

2022年4月22日 広島「御料理 粋人」 

中区八丁堀の裏通りにある和食の店「粋人」。                        テイクアウトのお弁当は何度か注文したことがあったが、店内で食するのは初めてだ。

この店の前にはいつも猫たちがたむろしていて、まるで招き猫のようだと感じて一度訪れてみたかった。今宵もいつもの猫が鎮座して待ち受けてくれている。これだけでも心癒される光景だ。

食事の方はアラカルトで色々と注文してみた。                飲み物は「森伊蔵」があり、これは嬉しい。いつものように、オンザロックにチェイサーを付けて頂いた。

北海道産の生ウニは海苔と合わせて、これは美味しかった。     ただ、広島和牛のロースとヒレ、両方を食してみたが、素材を活かしているようには感じなかった。鮑も同様でパサつき感もあり、自分の舌には合わなかった。ノドグロは臭みが感じられて、好きな料理だけに残念だった。

個室もあるが、L字型のカウンター席を予約しておいた。席は掘り炬燵になっており、居心地は良いのだが料理人がカウンターの中にほとんどいない。どうやら調理は裏方の調理場に行って行っているようだ。          料理人の手さばきを目にしながら食を愉しめると思ってカウンターにしたのだが、完全に当てが外れてしまった。料理人だけではなく誰もいなくなる時間もあって、注文したいときには奥に向かって声を張り上げなければならないので、これは多少なりともストレスに感じた。

しかし、外に出ると心地よいそよ風と、猫が見送りしてくれていい気持ちで帰途につけたのは、ありがたいことだった。            


                           須磨 光

2022年4月9日 広島「リュニベル」 

今回は初めての店を訪れてみた。                        2016年東白島にオープンした、広島では珍しいニース料理に特化した「リニュベル」。オーナーシェフの今井良氏は1982年生まれとのことなので、まだ40歳くらいと若い新進気鋭の料理人だ。フランス・ニース地方にあるミシュラン一つ星レストラン「リニュベル」で経験を積み、シェフのクリスチャン・プリュマイルの薫陶を受けたとのこと。      故郷の広島で自分の店を出す際に、ニースで100年以上続く由緒ある屋号「リニュベル」の名前を使う許しが出たことからも、ニース時代にプリュマイルシェフの信頼が厚かったであろうことが偲ばれる。                       

1Fはカウンターのみで2Fにテーブル席があるが、1日に1組か2組程度の少ない客を相手に、シェフがしっかりと向き合って料理を提供している様子が窺えて心地よい。                         完全予約制で料理はシェフお任せの1種類のみ。その時々の素材をニース料理に仕上げていく。料理単価は16500円で、これに1Fは3%、2Fは10%のサービス料が加算される仕組みだ。                   

この店のもう一つの特長がグラスワインが豊富だということ。    フランスを中心に日本やイタリアの自然派ワインを常時150本程度ストックしており、シャンパーニュから白、赤、デザートワインまでグラスで好みに合わせて色々な種類を飲み比べることができる。      めっきりと酒量の落ちた今では、グラスで色々と楽しめるのは大変ありがたい。ワインも大変美味しく頂いき、最後は珍しく普段は飲まないデザートワインまで調子に乗って口にしてしまった。  

料理はアミューズに豆が出て、帆立、縞鯵、鱒と魚介類が続く。蛍烏賊は茶碗蒸し風に調理されていたが、卵がスープのようにさらっとしていて個人的な好みだともう少ししっかりと固まっていた方が好きかな。 海老のリゾットは逆にご飯の芯が感じられたので、もっと雑炊のように柔らかい方が良かったとの印象だったが、所詮個人の好みで同伴者はちょうどよかったとのことだった。                 穴子は筍と一緒に天ぷらとして供されたが、筍が勝って穴子が脇役になっているように感じた。                       絶品だったのは比婆牛のステーキ。良い比婆牛が入手できたのでとのことだったが、確かに牛の質も良いが調理に違いあると思ってシェフに尋ねると、肉の温度を45度から50度の間で長く保つと肉の旨味が出て柔らかさが増すので、6時間くらいかけて準備しているとのこと。こうした手間が絶品のステーキを生み出しているのだと実感させられた。美味しい料理とワイン。至福のひと時を過ごすことができた。        須磨 光

2022年3月24日 山口県岩国「SAKURA」 


岩国錦帯橋に花見に訪れたのだが、平年よりも気温が低く桜はまだ蕾に近い状態だった。                        例年の今頃なら川沿いに満開の桜が楽しめたのだが残念。      しかし、おかげで人の出は少なくゆったりと会食と散策して過ごせたと思うことにしよう。                       

昼食は岩国国際観光ホテルの2Fにある和食レストラン「SAKURA」を予約しておいた。                         窓から錦帯橋や桜の木々(満開の桜の予定だったのだが・・・)を眺めながら和食のコースをゆっくりと時間をかけて味わうのは、ちょっとした旅気分で乙なものだった。                   

車を運転して訪れたので、ノンアルコールの生ビールにしたがこれが美味しくてビックリした。                     食事はどれも楽しんだが、なんといっても美味だったのは最後の「深川めし」。                            アサリの旨味がご飯に沁み込んで、思わずお代わりしてしまった。  

ちょっと食べ過ぎたので腹ごなしにロープウェイを使って登り、そこから徒歩で山頂にある岩国城まで歩いて運動をしたものの、帰りに錦帯橋名物のコロッケとソフトクリームを食べてるようではすべてが台無し。でも天気にも恵まれ色々と観て回って楽しい1日を過ごすことができた。ありがたいことだと感謝。                  



                           

                          須磨 光

2022年3月12日 広島「スカイダイニング リーガトップ」

リーガロイヤルホテル広島の33Fにある「スカイダイニング・リーガトップ」は広島の街並みを眼下にする眺望が売りの店だ。       手軽に夜景を楽しみたいという目的で、今夜はここをチョイスした。  ある意味、料理はあまり期待していなかったのだが、期待値が低かったせいか豈図らんやコース料理はどれも美味しかった。        期間限定の神戸牛プレミアムアニバーサリープランを予約しておいたのだが、オマール海老とテールと蝦夷鮑のポワレも美味だったし、メインの神戸牛フィレ肉のグリルも香草とトリュフの香りが効いていた。  しかし、何よりも驚いたのはデザートだ。こうしたところのデザートは大量生産された印象が強くまったく期待していなかったのだが、本格的なデセールだった。最後が美味しいと満足感が増す気がする。    飲み物はフリードリンクになっていて、これは月並みでも仕方がないところだろう。スパークリングと白ワインは普通に飲めたが、赤はだめだった。口を付けて、申し訳ないが飲み干すことができなかった。この後は焼酎のロックを飲むことにしたが、焼酎もフリードリンクでは当然だろうが、まあ普通。別料金でオーダーできるようになると、飲み物も楽しめて嬉しいところ。

神戸牛プレミアムアニバーサリープランのメニューは以下の通り。

★サーモントラウトのマリネ カルパッチョ仕立て オレンジ風味の    ビネグレット

★オマール海老テールと蝦夷鮑のポワレ ブルゴーニュ風 クリーミーポテト添え

★本日の魚 トマトと貝類の白ワイン煮込み ハーブとオリーブオイルの香り

★神戸牛フィレ肉 香草風味の香ばしいグリル トリュフソース

★ピスタチオ風味のクリームブリュレ           須磨 光

2022年3月1日 福山「ステーキ懐石都春日」 

福山市の春日町にあるステーキ懐石都。初めて訪れたのはかれこれ30年以上前になる。木々に囲まれた閑静な場所に、1500坪の敷地を贅沢に使って鯉の泳ぐ庭園、アンティークで飾られた趣のある室内は非日常空間を味わさせてくれる。店内にはショパンの時代を思わす貴重な古いピアノや小さいパイプオルガンもある。もっとも客が触れるのはヤマハのグランドピアノだけだが・・・。                 店の雰囲気や対面で調理をするシェフ、メニュー構成をみて八王子にある老舗名店の「うかい亭」を想起した。女将に「うかい亭に似てるね」と声を掛けたところ、なんとうかい亭に何度も足を運び参考にしたのだという。まさにコンセプトはうかい亭だったのだ。第一印象は案外と的を射ているものだ。      

今回はワインを愉しむ目的もあって、新幹線で訪れた。       料理は調理長お任せコースで設定されている最高ランクであらかじめオーダーしておいた。ワインはシャート・ムートン・ロートシルトの2013年物をワインリストの中からチョイスした。         少し若いのでデキャンタージュしてもらったが、すぐにコルクから漂うほど豊かな香りが感じられ、グラスから溢れんばかりの濃厚な香りを十分に堪能することができた。

料理はオードブルやスープ、和牛の薄切りから始まり、タラバガニ、黒アワビ、オマール海老などの海鮮が供され、メインは佐賀県産の和牛フィレだった。デザートはいつものように別室に案内されて複数の中から選ぶことになる。料理ではタラバガニが一番美味だった。後は何といってもワイン!デザートはいつも同じ感想なのだが、もう少し改善の余地があるように思う。最後を締めくくる瞬間なので、コーヒーやデザートが平凡な味なのはちょっと残念だ。見た目は美しく創意工夫していても肝心なのは味だ。さらによくなる可能性を秘めていると思うので今後に期待したい。今回のコースは費用面から考えて多少期待を下回った感は否めない。季節のコースあたりが一番満足感が得られそうだ。須磨 光

2021年12月9日 広島「なだ万」 

グランドプリンスホテル広島内にある「なだ万広島」。正直、定番メニューはがっかりさせられることが多いが、3日前まで受け付けている「料理長お任せコース」は、別店のように美味しい。季節的にフグ料理が出ていたが、これも良い味付けをしていた。窓から夜の海を行き交う船を眺めながら、ご飯ものまで美味しい料理を堪能させてもらった。帰り際に、黒服のマネージャと話しをすると、「お任せ」が入ると料理人の気合が目に見えて変わるとのことだった。料理長からすると、部下を育て勉強させる良い機会になるとのことのようだ。              須磨 光

2021年11月21日 広島「エピュレ」 

エピュレは最初のアミューズブーシュがとにかくうまい!料理が出るまでのお通し感覚で適当に出している残念なお店も多い中、視覚での想像を超える味はいつもちょっとした驚きを覚える。オープニングで感動し、続く料理に期待を持たせるワクワク感を得られるのだ。このアミューズに合わせるのはルイ・ロデレールのクリスタル2013年物をチョイスした。フルボトル3本は飲みきれないので、本日はシャンパーニュと赤の2本でいく。2013年のクリスタルはWAで98点、WSで96点と高い評価を得ているが、やはりうまいなあ。美味しいワインと料理。幸せです。    須磨 光

2021年7月12日 広島「ル・ジャルダン グルマン」


久々、「ル・ジャルダン・グルマン」!              相変わらず野菜が美味しい。                   そして素材の味を活かした優しい味付け。      

最初の「とうもろこし」の冷たいスープは、まさにとうもろこし!  濃厚でおいしい。

本日のメニューは以下の通り。

★とうもろこし

★季節の野菜

★活オマール海老

★利尻産うに

★村 公一さんのすずき

★榊山牛

★デセール





     

                           須磨 光

2021年4月7日 広島「RESTAURANT TAILLA」


十日市にある大通りから一本入った路地沿いにある隠れ家的なフレンチレストラン。フレンチだが、パスタやジビエ料理も得意で独創的な料理を味わうことができる。ワインにも力を入れていて、ソムリエ役の女性に好みを伝えると料理とのマリアージュが抜群のワインをチョイスしてくれる。特に、シャンパーニュが見事!      

初めてこの店を訪れた際に、既視感を覚えた。店内の雰囲気が呉市にある「Amiral」とよく似ている。Amiralは一日一組に限定し、なかなか予約の取れない人気店なのだが、シェフに「呉のAmiralと雰囲気がよく似ているね」と声をかけたら、なんと意外な事実が判明した。    Amiraiの永島茂明シェフとは同じ師匠のもとで修業した兄弟弟子で、内装のデザイン・施工を同じ業者に依頼したとのこと。        道理で雰囲気が似ている筈だ。     

オーナーシェフの原田平さんは、南フランスで修業した後、東京や広島のレストランでシェフを務めた経歴を持つ。アラカルトのほか、お任せでのコース料理を用意しているが、予算を伝えてオリジナルのコース・メニューを用意してもらうこともできる。予算をかければ、それに応じた創意工夫の詰まった料理を提供してくれるのは嬉しい。店によっては定番メニューからブランド牛に変えて金箔やトリュフをふんだんにかけましたでお茶を濁すところも多い中、良い素材に手をかけてくれるのでコストに応じた感動を味わうことができる。 

どれも美味だが、なかでも「蟹のリゾット」や「ウニのスパゲッティ」は抜群で感動ものだ。                      ここはバゲットも美味しい。パンは断ることも多いのだが、ここだけはしっかりと食している。自家製ではないものの、レシピを渡してオリジナルのパンを焼いてもらっているとのこと。            この日のメニューではないが、牡蠣を用いた料理もおいしかった。






                          須磨 光

2021年3月11日 広島「天よし」

中区吉島にある天ぷらのお店「天よし」。天ぷらと吉島を掛け合わせた店名だ。料理はお任せで注文したが、工夫を凝らした種が次々に供されて飽きることがない。店主の石廣大晧さんは、天ぷら専門店だけでなく、日本料理や鮨、蕎麦店など様々な和の店で修業されただけあって、天ぷらを用いた創作料理のようだ。太白ゴマ油とナタネ油をブレンドした揚げ油を使って、薄衣で出される天ぷらは数多く口にしても重くならない。    ワイン好きの女将がソムリエ役を務め、天ぷらと合うシャンパーニュと白ワインがリストアップされていて、ワインと天ぷらのマリアージュもまた楽しい。                                                        須磨 光

2020年8月23日 広島「OZAWA」

行きつけのオザワは、いつでも我が家のように気楽にフレンチを愉しむことができる。ダイエット中に何度かパンを断っていたら、いつの間にか自分の席だけ黙ってパン皿が下げられるようになり、薬のための水が置かれるようになった(笑)。ソムリエがワインの嗜好を知ってくれているのもありがたい。久重浩シェフの創作料理は、看板の小沢シェフよりも好みに合う。本日は料理とシャンパーニュを堪能した。ルイ・ロデレール クリスタル2006年とドン・ペリニヨン2009年を飲み比べた。料理とワイン、家族との会話・・・私にとって至福のひとときだ。        須磨 光

2020年5月6日 「横山幸雄マイハートピアノライブ」 

コロナ禍で自粛や行動制限を受け不自由を強いられる世界で、便利になったことも出てきた。公的な書類でも印鑑が不要となるケースが増え、オンラインが当たり前となってビジネスも随分効率化された。以前から言われていたことであり、コロナ禍で一気に進んだ印象だ。やればできるじゃないか!プライベートでも美味しい食事やお酒がデリバリーで楽しめるようになり、音楽もオンライン配信が増えてきた。もちろんコンサート会場の中で感じる空気感や得られる感動は遠く及ばないかもしれないが、音楽を聴きながらライブで感想を届けたりすることはオンラインならではの特典だ。他の観客が今の演奏をどう思っているのか窺い知ることは興味深い。また、クラシックの会場では演奏中の音は咳ひとつするにも気を遣うことになるが、ワインを愉しみながら名曲に酔いしれることができるのはライブ配信ならではだ。ショパンの美しいメロディーは、年代物のワインによく合うことに気が付いた。                                               須磨 光       

2020年4月9日 広島「鮨処ひと志」

広島の中区小町にひっそりと佇む隠れ家的鮨店の「ひと志」。店主の武末仁志さんは、福岡の鮨割烹の名店「やま中」で修業されて奥様の実家がある広島で店を持った。お任せで出される一品は、味付けが施されており食べやすくどれも美味だ。また、ワインや日本酒、ビールにもこだわりがあり、お酒と鮨のマリアージュを愉しむことができる。ワインリストには値段が「時価」と書かれているものもあり、オーダーする際には注意しないと後で勘定の際に青くなるかも・・・(笑)                                     須磨 光

2019年12月25日 「ARASHI Anniversary Tour 5×20」ライブビューイング 

来年で活動休止を決めている「嵐」の20周年ツアー「5×20」の最終公演となる東京ドームコンサートのライブビューイングを観に行った。    全国328館で17万人を動員したがファンクラブ限定の抽選で、外れてしまった人も多かったようだから、もっとハコを増やしていたら一体何人集まったことだろう。東京ドームに5万5千人が集まったので、トータル23万5千人がクリスマスの夜、嵐のコンサートを観ていたことになる。

ライブビューイングといってもチケット代だけで4800円するので、8億1600万円の売り上げになる計算だ。会場内は熱気があった。皆、コンサート会場と同じペンライトを持ち、曲にあわせて前後左右に振っている。数は少なかったが立ちっぱなしの人もいて、スクリーンを観ているわけだから迷惑に思った人もいるだろう。激しいダンスをする曲は、あきらかに口パクと思われるものもあったが生歌も多く、天皇陛下御即位祝賀式典での奉祝曲でも感じたことだが5人全員の歌唱力が高い。メンバーの1人、櫻井翔はピアノの伴奏も披露していた。音を外してはいたものの、グループ活動のほかキャスターとしてレギュラーも持ち、多忙を極める中でピアノ練習を続けたことを想像すると、その努力に頭が下がる。「ヤマハのコンサートピアノを使い、全てのツアーに専属の調律師が帯同してくれたが、その自分はヤマハの教室に通っている」と語って笑いをとっていた。    櫻井翔モデルを作るなら迷彩柄と言っていたので、ヤマハから迷彩柄のグランドピアノが出るかも?

最後の挨拶では大野智が泣きながらファンに向かって語っていた。その様子を見て、号泣するファンも少なくなかったようだ。3時間以上にわたるコンサートを観て感じたことは熱だ。歌やダンスといったパフォーマンスも優れていたが、嵐というグループは大きな熱を発している。その熱こそが多くのファンを引き寄せる求心力となっているのだろう。平成という時代を駆け抜けた稀有なアイドルグループだ。       須磨 光       

2019年12月23日 本「数学書として憲法を読む」 秋葉忠利 著 

久々に読み応えのある一冊に出会った。前広島市長の秋葉忠利氏が書いた「数学書として憲法を読む」である。憲法改正や安保、自衛権、天皇制など昨今の取り巻く情勢は、自ずと憲法への関心を高めいくつかの解説書を紐解いたがどれもピンとこない。憲法学者の語りは己の解釈をいわば押し付ける形となっており、これが人によって180度異なる見解を述べてくれるのだ。様々な学説や解釈が乱立し、読み手サイドは混迷を極めるばかりだ。この本は憲法学者ではなく数学者である秋葉氏が憲法を著したところが肝で、まさに目から鱗というか、こんな憲法書を待っていたのだ。秋葉氏は憲法の明文規定を「公理」と見立てて「定理」を証明していく。そこには己の信条や解釈を排し、あくまで「論理的」「客観的」に数学的手法をもって証明していこうとする著者の誠実さが表れている。著者は憲法の条文の中から「永遠」や「総意」「絶対」「永久」「最大」「常に」などの絶対的な表現を探し出し、これらの条文が「改正不可条項」であることを証明していく。読者は「改正不可条項」を絶対条件として憲法の解釈を進めていくことが可能となるのだ。著者は最高裁の判例も俎上に載せて、その論理的矛盾を小気味好いほど明らかにしていく。

この本の最大の価値は思考を促してくれるという点にある。読んで終わりではなく、数学的に証明された絶対条件をもとに憲法を己の頭で考えていくのだ。思考するうえでのスタートラインを明確に定義し、かつ整理してくれているので、考えることは尽きない。憲法では残虐な刑罰を絶対に禁じていることから死刑制度は違憲と考えられる。一方で刑期満了で野に放った場合、受刑者本人が再犯公言しているよう場において「公共の福祉に反する」可能性が出てくる。両立させる手段としては仮釈放なしの終身刑の創設などが考えられるが、果たしていつかは世に出れるという希望が見出せない刑が、死刑よりも残虐ではないと断言できるだろうか。絞首刑ではなく薬などでの安楽死と仮釈放なしの終身刑とを受刑者本人に選択させるとどちらを選択するのかなど、様々に思考を巡らしていくことは興味深い。

戦争について憲法9条では「国際紛争を解決する手段としては、これを永久に放棄する」と定義されており「永久に」とあることから改正不可条項であることは明らかだが、一方で国際法での自衛権は認められるのか。自衛が許されるとしたら、どこまでの範囲で武力行使が許されるのか。あるいは自衛目的であってもいかなる武力行使も許されないのか。他国に侵略されて財産や生命が簒奪されても無抵抗を貫くべきなのか。    ふと思ったのだが、「自衛隊」はなかなかによく練られたネーミングではないか。

天皇制については憲法にも明記されており、天皇は国民統合の象徴だ。天皇は権力を有する者ではなく、ただ日本国民の安寧を祈る祭祀者的立場であるといえる。天皇が安寧を祈願してくれることで国民は安心し、被災者を見舞い、寄り添うお姿に癒される者も多いだろう。         血統の続く天皇は国民の象徴であり、多くの国民にとって日本人であることのアイデンティティともなっている。そうした天皇は、そもそも日本国民なのだろうか。国民であるとしたら天皇も基本的人権を有するのか。しかし現実は、天皇に義務はあるが人権がないのは明らかだ。      この本によって原理原則を踏まえたうえで憲法を考えていくと、思考は尽きない。                       須磨 光

2019年12月16日 広島「ル・ジャルダン グルマン」

広島のフレンチの名店の一つ、「ル・ジャルダン グルマン」を訪れた。小山賢一シエフは、スイス・ジュネーブの「ホテルペンタ」、ベルンの「レストラン ピュネー」、フランス・アヌシーの「オーベルジュ ドゥ レリダン」、オークセールの「ル・ジャルダン グルマン」、パリの「サンジェームスクラブ」など世界で修行後、1990年に故郷の広島にて「ル・ジャルダン グルマン」を開業し、広島におけるフレンチの名店としての評価を高めた。この日のメニューは、1.ジャガイモとういきょうのスープ、2.季節の野菜、3.松葉ガニ、4.地御前 川崎健さんの牡蠣、5.村公一さんの真鯛、6.安芸太田町 見浦牧場の黒毛和牛と続き、デセールで締めるコースとなっていた。

小山シェフは自家菜園で採れる食材や、地元や各地の生産者を通して厳選した食材を使った料理を追及している。作り手の顔が見える食材に拘っており、特に野菜の扱い方は見事だ。いつ食べても体にやさしい料理で、疲れた心と体を癒してくれる。            須磨 光

2019年12月5日 横浜「中華カリュウ」 12月6日 横浜「フレンチAzur」

12月5日と6日、中華の「カリュウ」とフレンチの「アジュール」で食をとった。どちらもヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル内にある。「カリュウ」はBGMにジャズが流れモダンなインテリアの店で、31Fから見える夜景は海の彼方に灯りがともり、美しい。      

1.焼き物前菜盛り、2.前菜の盛り合わせ、3.魚コラーゲン入りフォアグラ茶碗蒸し仕立てスープ、4.ロブスターの自家製チリソース煮込み、5.黒毛和牛ロースの煎り焼き 山椒の香りソース、6.海鮮と野菜のチャーハン オイスターソース風味あわび添え、7.朝鮮人参と珍味乾貨入り蒸しスープ、8.オリジナルデザート、9.鉄観音茶、というコースなのだが、一番美味と思ったのは最初の「焼き物前菜盛り」の中にあった焼き豚。焼き豚はロブスターやアワビ、朝鮮人参といった高級食材とは異なり、家でも気軽によく食べている料理なのだが、味付けや焼き加減が異なるのかとても美味しく感じた。それに対して高級食材の方は最初から食べ手側のハードルが高くなっていたからか、特段の驚きや感動を得ることはできなかった。     

フレンチの「アジュール」の方は、1.食前のお楽しみ(Amuse-bouche/Smaii Appetizer)、2.帆立貝柱のミキュイとキャビア 柚子香る帆立貝のブイヨン、3.黒毛和牛サーロインの炭火焼き 大根のミジョテ、トリュフバター、4.クロムツのポワレとトロンペット茸のソテー 鰹節と干し海老の軽いクリーム、5.蝦夷鹿のローストとラグーのアンクルート 根セロリのピュレ、ソース・グラン・ヴヌール、6.トリュフとパンデビスのキャラメリゼ ヘーゼルナッツクリーム、濃厚なキヤラメルアイス、7.コーヒーまたは紅茶・フランス風小菓子のフルコースだ。  

メインの肉はジビエだが、一品一品のボリュームは多くなく品数を増やして愉しませてくれる。2品目の「帆立貝のミキュイとキャビア」は天然の資源量が比較的豊富な海産物を指す「ブルーシーフード」に指定されていた。シエフは石井浩治氏。ただ残念だったのは、店内は満席には程遠い客数だったにも関わらず、食べ終えてから次の料理が出てくるまで時間が相当空いてしまったことだ。シャンパーニュ、白2種、赤2種の料理に合わせたペアリングワインをオーダーしたのだが、料理を待つ間に白ワインを飲み干してしまって、料理がきたときにはグラスが空になっていたことから、ソムリエが同じワインをサービスしてくれたのだが、とにかくすべての料理が遅かったのは残念なことだった。この日だけ厨房の人手が足りなかったか、何かアクシデントがあったのだろうか?     通常通りだとすれば、満席にでもなればどうなってしまうのだろうと他人事ながら心配になる。                須磨 光

2019年11月26日 東京港区芝「ONIQUE TOKYO」 11月27日 東京銀座「鉄板焼かいか」

11月26日夜、東京三田駅近くにある「ONIQUE TOKYO」に出向いた。フルコースをお肉で提供する肉好きにはたまらない変り種のお店だ。「和牛のカルパッチョ ブッラータチーズと季節果実」や「和牛の手巻き サーロインのユッケ トリュフと卵黄ダレ」、「和牛の巾着 雲丹包み」が提供された後、いよいよメイン「シャートーブリアンの天麩羅」、「和牛の炭焼き2種 紀州備長炭仕上げ シャートーブリアン/黒タンブリアン」へと進み、口直しをはさんだ後、「和牛テール出汁しゃぶ 和牛しゃぶスキ」が出て「和牛土鍋ご飯」で締め、デザートで終わるまさに和牛尽くしのフルコースを堪能できる。肉ばかりだが調理や素材の組み合わせを工夫しており飽きがこないが、一品一品は少量でも何せ品数が多いので最後の土鍋ご飯は食べ切れなかった。意外性を愉しむことができたが、中でも気に入ったのはシャートーブリアンの天麩羅だ。      

翌27日は当初、銀座うかい亭に行く予定にしていたのだがスケジュールが変更になり、予約していたうかい亭の時間変更が叶わなかったため、急遽、同じ銀座の鉄板焼「かいか」に変更した。フォアグラや伊勢海老、鮑など鉄板焼きではおなじみの食材に、和牛のフィレとサーロインを食べ比べるコースだ。一番美味しかったのは伊勢海老の味噌汁かな。肉も鮑も確かに美味しいのだが、特別感は感じられなかった。スタッフのサービスはさすがでスマートな立ち居振る舞いには、うーん、さすが銀座の特別感、魔王のロックで気持ちよく酔わせてもらった。     

両店舗ともにそんなに広くなく、また静かなので他の客の話が聞こえてきたのだが、これが雰囲気があるというか、とても面白いのだ。話しの中身がではない。話し方や会話というのが、なにやら不自然なのだ。ちょうどドラマの中のワンシーンを観ているような錯覚に陥る。   銀座ではカウンターに中年男性と若い女性のカップル客。男性はどうやらテレビなどの業界関係者のようだ。欅坂や乃木坂といったアイドルグループの名前が次々と口の端に上る。三田のお店では、男女の会社員がテーブル席でワインを傾けながら熱く語り合っている。窓越しに見えるライトアップされた東京タワーを背景に語り合う彼らは、やはり何かの役を演じている役者のように見えてしまう。東京ラブストーリーとかの懐かしいトレンディドラマを観ているようで、とても興味深かった。  

昼間には東京国際ピアノコンクールの前で語る音大生(某音大大学院)がファンと思しき女性の前でクラシックについて熱弁をふるう様を隣の席で聞くことになり、東京は「語る人」が多いと感じる二日間だった。

                           須磨 光


2019年11月25日 映画「京城学校 消えた少女たち」 

昨今の日韓情勢を見ていて、2015年に製作された韓国映画「京城学校 消えた少女たち」を思い出した。話題の書「反日種族主義」からも読み取れるように、政権が変わるたび程度の差こそあれ「反日主義」が脈々と受け継がれてきたように思う。根底には日本に対する強烈なライバル心だったり、憧れや目標、コンプレックスから、もはや追い抜いたとの自負心までもが混在しているのではないだろうか。

もう40年ほども前のことになるが韓国を初めて訪問したときのことだ。観光ガイドが「日本の国会議事堂より何メートル高い」とかやたら日本と比較していて激しい競争心を感じたものだ。今では美容や食、K-POPを看板に観光客を集める韓国だが、当時はキーセン観光を目玉としていた。

妓生(キーセン)とは、李氏朝鮮時代以前に近隣強国からの使者や高官の歓待や宴会で楽技を披露したり、性的奉仕をする奴婢のことである。  大韓民国においても朝鮮戦争後の復興資金目的で外貨を稼ぐ手段として、国営妓生を運営していた。つまりは国が外国からの観光客向けに売春を斡旋していたことになる。情けないことに当時の一番の客は日本人だった。JTBや近畿日本ツーリストといった大手旅行代理店が堂々とキーセン観光を目玉としたツアーを販売していたのである。当時の韓国は貧しく外貨が不足していたが、経済成長を遂げた日本においても精神的な成熟度は貧しくモラルも不足していたといえるのだろう。当時の宮中を再現したような建物の中で宮中料理を食すところから始まるのだが、民族衣装を纏った妓生が横に座り、箸で食事を口に運んでくれる。食後はホテルまで同行して一夜を共に過ごすという仕組みだ。当時はこれが当たり前で、国が観光事業として行っていることから、多くの日本人に後ろめたさは希薄だったのだろう。こうしたことが1990年代まで続いた。また、当時は戒厳令が敷かれており、深夜0時を過ぎると外国人も外出が禁止されるため、午後11時以降はタクシーの争奪戦が激しくなったことを覚えている。      昼間であっても、ちょうど造成中であった建造物の写真を撮っていると、警察がきて職務質問を受けたことがあった。どうやら誰かが通報したようなのだが、北朝鮮のスパイと間違えられたようだ。今とは隔世の感があるが、ほんの40年ほど前はこのような時代だったのである。

さて、「京城学園 消えた少女たち」だが、日本統治時代の女学校を舞台にしたホラー的要素のある映画で、学園ドラマでもあり、ミステリーやサスペンスも感じさせる味付けとなっている。ただ、この映画の本当のテーマは違うのではないだろうか。主要キャストはすべて韓国人で、日本人の設定は端役の日本兵だけである。ところが教師も軍人も生徒も皆日本名を名乗っている。生徒たちが本名を名乗りあうシーンがあるので、日本によって無理やり創氏改名させられたことを表しているのかと思ったら、どうやら異なるようだ。皆、日本人に近づきたいと心から願っているのだ。  生徒たちは良い成績を収め、日本に行けることを目標に競い合っている。

大変印象的なシーンがある。軍人役で健二と名乗る韓国人がおり、日本兵に命令を下すことのできる上官との設定だった。その健二が学校長の加藤早苗に問う場面だ。「君はどうしてここまでやるんだい?金か?それとも出世か?」それに対して加藤早苗は心の底にある叫びを吐露する。「私・・・私は認めてもらいたいんです。加藤早苗として、真の皇国国民として、堂々と日本に入りたい。このウンザリする朝鮮を自分の実力で、自分の足で、抜け出したいんです!」

魂の慟哭のようであった。この映画がわずか4年前に作られたことに軽い驚きを覚える。このようなセリフを映画の中とはいえ、今の韓国で受け入れられるであろうか。そう考えると、この数年での反日感情の高ぶりは、やはり異様と映るのである。                        須磨 光

2015年製作 韓国 監督イ・ヘヨン 出演パク・ポヨン/オム・ジウォン/パク・ソダム/コン・イェジ    

2019年10月30日 広島「エピュレ」 

フレンチの名店「ルココ」が京橋町の川沿いに移転して、店名も新たに「エピュレ」として再スタートした。もともとジビエ料理に定評があったが、この日のメインに供された「蝦夷鹿」も柔らかさと歯ごたえが両立し、上品な中にも滋味を感じさせる一品だった。最初のアミューズから最後のデセールまで、味だけではなく目でも愉しませてくれる。

シェフの浅田浩司さんは、今でも毎年のようにフランスに通う研究心旺盛な人(右写真の中央が浅田シェフ)だが、そのシエフの宝物が右上の写真のコックコートである。フランスで修行を重ねた店を去り、帰国する際に、料理長を始めその店のスタッフが寄せ書きを書いてプレゼントしてくれた思い出の品とのこと。このコックコートを見るたびに、若き日の修行の日々を思い出し、気持ちも新たに料理に取り組んでいるのだろう。料理に対していつまでも真摯で誠実な姿勢が、提供される一品一品に表れている。                                   

                                                            須磨 光       

2019年9月4日 熊本「日本料理とみた」 菊の雫

熊本の名店、「日本料理とみた」で食事をする機会を得た。     予約が取りづらいことでも有名で、直前で2席取れたのは幸運だった。     到着時間に15分の幅をもって伝えた上に、さらにそこから遅れるという不始末をしでかしたのだが、 扉を開けると主人が正座で迎えてくれていたのには驚かされた。もしかして20分以上こうして待たせていたのだろうかと不安にかられたが、帰りも同じく正座で見送りのため待っておられたことからすると、懸念の通りだったかもしれない。

9月9日は五節句の一つ「重陽の節句」であることから、これにちなんだ献立となっていた。別名「菊の節句」といわれるように「菊」もまた「重陽の節句」に欠かせない。菊は生命力の象徴であり、その豊かな香りが邪気を祓ってくれると考えられていたとのこと。        重陽前夜には「着せ綿」といって菊の花に真綿を乗せて、翌朝菊の露と香りを含んだその綿で体を拭い、健康や不老長寿を願っていたようだ。本日の最初の料理には、菊の花と綿が乗せられており、菊の露を含んだ綿で手の甲を拭い、邪気を祓う儀式から始まった。

伝統的なお供えの料理は、右と左で区分しているとのこと。向かって右が上位、左側が下位の料理との説明を受けた。こうした説明も食事中はななされず、食後に主人自らが行っている。食事中は料理と会話に集中してもらおうという心遣いなのだろう。私の知る某フレンチレストランとは対照的だ。立派な古民家と庭園が売りで春は桜が咲き誇り、ミクニで修行したシェフを擁するが、オーナーが一品ごとに長講釈を垂れるのでせっかくの料理が冷めてしまうのではないか、食べ時を逸するのではないかと気を病むことになる。毎回必ずなので礼を失するとは思いつつもいつしか話を無視して出てきた料理はすぐに口にするようになった。料理もだが会話の腰も折られることになる。短い料理の説明は良いが、料理が冷めてしまうほどの長講釈は、もはやオーナーの自己満足に過ぎない。

すべてが美味だったが、特に印象に残ったのがマツタケと鱧の土瓶蒸し。夏の終わりと秋の訪れを感じさせる「鱧松」は逸品だった。   産卵後に食欲を増した鱧も美味しい。ほかにはマツタケと鮑の天ぷらも、十分に満足させてくれる美味しさだった。

「とみた」の料理は味もさることながら、料理に物語性がある。  凝った細工を目で楽しみ、料理の意味、物語を考えながら食すと、一層味わい深くなる 。そんな献立だった。

                            須磨 光


2019年7月11日 由布院珈琲館 優しい時間

由布院の金鱗湖近くにある「由布院珈琲館」。湖畔から少し奥まった場所にあるため、静寂の中で珈琲を楽しむことができる。カフェ・ロワイヤルを戴いたが、正直なところ特別な味というわけではなかった。ただ、アンティークな品々に囲まれた店内で庭を眺めながら、マスターが豆を挽き、サイフォンでゆっくりと珈琲を点てる間を待つ時間。そして角砂糖に染み込んだブランデーの火が消えるまでの束の間の時間。少しずつ珈琲を口に含む時間。ゆったりと過ごせるこの時間を提供してくれるこの空間こそが貴重なのだと。ここには優しい時間が流れている。

そういえば昔、そんなタイトルのついたテレビドラマがあったなと記憶を辿ると、思い出した。倉本聡原作で「優しい時間」。静かな森の中に佇む喫茶店が舞台だった。喫茶店の名前は「森の時計」。この珈琲館は、さしずめ「湖畔の時計」といったところだろうか。       須磨 光     

2019年7月9日 グランジと愉しむOZAWAの夕べ

オリエンタルホテル広島のフレンチレストランOZAWAにて7月9日、グランジを始めとするペンフォールズのワインとフレンチコースを愉しむイベント「グランジと愉しむOZAWAの夕べ」が催された。まずはテタンジェが振る舞われる。OZAWAでは定番のシャンパーニュなのだが、何故かいつもより美味しく感じる。思わず声に出すと、ソムリエが「マグナムボトルだと一層美味しくなるんですよ」と教えてくれた。

オーストラリアの名門ワイナリーペンフォールズのワイン5種類を飲み比べできるのだが、前菜とあわせて「クヌンガ・ヒル・オータム・リースリング」からスタートした。「ヤッターナ・シャルドネ・2015」、「ビン407カベルネ・ソーヴィニヨン2012」、「ビン389カベルネ・シラーズ2015」と、次々に料理と共に供される。飲み干すとお代わりを勧めてくるが、なんといっても本日の目玉は「グランジ2002」。市場でもなかなか入手困難な貴重品だ。その前に酔ってしまっては後で後悔する羽目になるので、ここは自制する。

料理も見事な出来だった。小沢貴彦の薫陶を受けた久重浩シェフが作るオリジナルメニューは繊細で見た目も美しく、いつも驚きに包まれた味を提供してくれる。今回も「みょうがと鮑」、「とうもろこしとフォアグラ」、「サクランボとシャラン鴨」など組み合わせの妙を十分に堪能できた。

さて、本日の主役「グランジ2002」だがほろ酔い気分を目覚めさせてくれる芳醇な香り。口に含むと余韻が後まで残るところがこれまでのワインと違う。香り、最初に口に含み、舌の上で、飲み干し、さらにその後に続く余韻。一口で異なる味・印象を愉しませてくれるワインだった。須磨 光

2019年7月6日 横山幸雄(ピアノ)&藤田卓也(テノール) 夢の大共演

テノール歌手の藤田卓也とピアニストの横山幸雄が、ゾーナイタリア イン・チェントロで、コンサート・ディナーを行った。過去に2017年4月29日、2018年5月26日と同様の共演を行っており、毎年の恒例となって毎回大好評を博している。オペラを目の前で堪能できる機会はそうあるまい。盛り上がること。感動の嵐である。また、合間の語りがウィットに富んで、大変面白い。共演する横山幸雄の演奏も1人だけのコンサート・ディナーのときよりも熱がこもっているように感じるのは気のせいか・・・。いずれにせよ、互いに刺激を受けていることは間違いないだろう。1流のアーティスト同士による共演の醍醐味である。

この日は昼・夜の2部制だったが、夜の部に参加した。藤田卓也は、トスカやリゴレットのアリアを披露するのだから盛り上がらないわけがない。 歌いながら歩いてくると、まさに手を伸ばせば届くような距離で素晴らしいテノールが響いてくる。オーストリアだったかドイツだったかで、当地の娘にモテモテだったとの話しを以前本人から聞いたが、さもありなん。音楽家がもてるというのは古くから変わらないんだなと実感させられた。横山幸雄も、もちろんモテ男の代表格である。この日も参加されていたが、北海道から九州まで追っかけをしている女性がいる。どのコンサートでも必ずお目にかかるので、話しをさせて頂くようになった次第。

横山幸雄のプログラムも力が入っている。ショパンのバラード1番から4番までを順番に演奏していく。最初のバラード1番はミスタッチが多少目立ったように感じたが、だんだんと熱が入り最後の4番は圧巻の演奏だった。まさにブラボーである。難曲の4番や人気の1番もいいけど3番もバラードの中で最も歌っていて物語性があり好きだなと、この日の横山幸雄の演奏を聴いて改めて実感した次第。それにしても1番は多くのピアニストや学生、時には中・高校生まで弾くが、美しく演奏してくれなければ聴いていてこれほど腹の立つ曲はないと思う。そうした意味では難しい曲だなと。   この後、約1週間先の7月15日に、JMSアステールプラザ大ホールで横山幸雄ピアノリサイタルを聴いたが、このときのバラ1は素晴らしかった。


プログラム

藤田卓也                                                             プッチーニ/歌劇「トスカ」より、妙なる調和/星は光ぬ                                       ヴェルディ/歌劇「リゴレット」より、あれかこれか/女心の歌 彼女が攫われた~あの娘の涙が見えるようだ                                            

横山幸雄                                                             ショパン/バラード 第1番 Op.23 第2番 Op.37 第3番 Op.48 第4番 Op.52                                           

伴奏/横山幸雄                                                                                                            

                                                               須磨 光 

 左から2番目がテノール歌手の藤田卓也さん。右端が広島大学大学院教授・エリザベト音楽大学非常勤講師の濵本恵康先生。       

2018年5月3日 横山幸雄 音楽史に燦然と輝く 世紀の4大ピアノ協奏曲演奏会

5月3日、広島文化学園HBCホールにて、大変なコンサートがあった。なんと1人のピアニストがベートーヴェン、ショパン、チャイコフスキー、ラフマニノフの4大ピアノ協奏曲を、間に短い休憩が入るとはいえ一挙に奏でるというのである。到底人間業とは思えない。1曲1曲が難曲揃いで、それをオーケストラと息をあわせての協演だ。第一、すべてを暗譜していること自体凄い。まあ212曲のショパンのピアノ独奏曲を、丸1日がかりで通して暗譜で演奏できてしまう横山幸雄だからこそといえるだろうか。類まれなる集中力、記憶力、体力が要求されるが、すべてを兼ね備えている超人といえるだろう。自宅に大きなセラーを持つワイン愛好家、自らレストランオーナーとなるほどの美食家としても有名だが、なんでも多くのワインの銘柄や産地など、すべて記憶されているらしい。そもそも頭脳の出来が凡人とは異なるということだろう。ちなみにジャンクフードなどは一切口にしないらしい。コンビニ飯やそこいらの食堂で腹を満たすくらいなら、忙しい日中はミネラルウォーターだけで過ごし、夜に時間をかけて美味しいものだけを食すとのこと。これも凡人にはできることではない。

広島交響楽団との協演だったが、ソリストの横山幸雄はもちろん、オケも素晴らしい演奏を披露してくれた。途中から疲れがみられるのではとの危惧もなんのその、むしろだんだんとエンジンがかかってきて、最後のラフマニノフは圧巻だった。ラフマの2番をラストに持ってくるあたり、そこに横山幸雄の自信と気概を感じた。長時間のコンサートで聴衆の方も疲れたが、充実感に溢れた心地よいものだった。

実行委員を務められた濵本恵康先生(実行委員長)、宮入友子先生のご尽力により、広島の地で素晴らしいコンサートを楽しむことができたことに感謝を捧げるものである。

プログラム

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.7「皇帝」                                    ショパン/ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11                                            チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23                                        ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18

指揮/下野竜也                                                           広島交響楽団                                                 

                                                               須磨 光 

2018年4月22日 フレッシュデビューコンサート Vol.3

カワイ広島のコンサートサロン「パーチェ」にて、若手ピアニスト4名によるコンサートがあった。先立って行われたエリザベト音楽大学の卒業演奏会でソロ演奏を披露した4名である。音楽大学を卒業したばかりの若手4名、コンサートタイトル通りのまさにフレッシュな演奏であった。有料でのコンサート、先日まで大学生であったという言い訳はできない。

技術的なことを抜きにして、というよりもそもそも単なるいち愛好家の素人には語る術もないのだが、演奏で観客を楽しませるという点では場数を踏んだプロのピアニストと比べることすらできない。4名ともに聴き手を考える余裕もなく、己の演奏だけに没頭している様子だった。こうなると観客はリラックスしてクラシックを楽しむというよりも、奏者と共に緊張を強いられることになる。

こうしたコンサートでの見所は別にある。コンサート慣れしたベテランでは決して感じることができないものだ。4人はそれぞれ、大学院や海外留学、あるいは社会人としての演奏活動など、様々な進路の中で音楽を続けていくのだろう。これまでの集大成として、そしてこれからの未来に向かって、一人ひとりの野心や情熱、夢、希望が演奏の中に詰まっていたように感じた。

4人のソロ曲は下記の通りだが、一番楽しめたのはアンコール曲のギャロップマーチだ。1台のピアノを4名の8手連弾で弾いた。4人の息があって、どんどんテンポアップしていく。ソロのときの緊張感から解き放たれて、音楽の幸せに包まれていく。楽しい時間だった。

プログラム

柳原真希                                                             G.フォーレ/主題と変奏 嬰ハ短調 Op.73                                            C.サン=サーンス/第5協奏曲のフィナーレによるトッカータ Op.111-6

山根なな美                                                            I.アルベニス/マヨルカ島 嬰ヘ短調 Op.202                                           F.リスト/巡礼の年 2年補遺「ベェネツィアとナポリ」 S.162

須磨夢子                                                             ショパン/ピアノソナタ第3番 ロ短調 Op.58 全楽章

讃井万由子                                                            W.A.モーツァルト/フランスの歌「ああ、お母さんに聞いて」による12の変奏曲 KV265 ハ長調                   S.リスト/バラード 第2番 ロ短調

使用ピアノ/Shigeru Kawai SK-7                                                  調律/加藤正巳                                                 

                                                              須磨 光

2017年11月12日 松本和将 町屋ピアノコンサート

広島市安佐北区の古民家かしわや入江にて、ピアニスト松本和将のピアノコンサートがあった。

かしわや入江は檜や白壁でできた趣のある古民家で、そこにタキシードを着た松本さんが妙にマッチする。暖色の照明が顔に陰影を作り、後ろの白壁に影を落とす。コンサートホールでは見ることのできないファンタステックな光景だ。

松本和将の迫力あるフォルティッシモを木や土壁が吸収し、床板は震える。耳で聴くだけではない、まさに体感する音楽だった。

素晴らしいラフマニノフ、そしてスクリャービンではどんどん高く、そしてやがて宇宙空間へと誘なわれる。演奏の間、不思議なトリップを体感することになる。神秘主義に傾倒していったスクリャービンだが、そういえばモスクワ音楽院で同級生だったラフマニノフも渡米後、精神を病んでいった。天才が音楽を突き詰めると常人とは異なる精神状態となるのだろうか。モスクワ音楽院での卒業試験ではラフマニノフが1位、スクリャービンが2位であったとのことだが、演奏を聴きながら当時の情景が映画のように脳裏に浮かんできた。

ムソルギスキーの組曲「展覧会の絵」はまるで壮大なオペラを観ているかのようで、フィナーレでは観客全員が感動の渦に飲み込まれていく。

いつもの演奏も特別な空間の中で、特別な時間を過ごすことができた。

プログラム

ラフマニノフ 前奏曲Op.3-2嬰ハ短調「鐘」

チャイコフスキー 「四季」Op.37bより

 7月 刈り入れの歌

 11月 トロイカ

 4月 松雪草

ラフマニノフ コチシュ:ヴォカリーズOp.34-14

スクリャービン エチュードOp.2-1嬰ハ短調

スクリャービン ピアノソナタ第5番Op.53

ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」

エリザベト音楽大学後援会理事 須磨 光

2017年4月13日 庭園の宿 石亭

世界遺産の厳島神社を有する宮島の対岸にある石亭で昼を食した。1500坪もある敷地にわずか12室だけという贅沢な作りの温泉宿。あなご料理で有名な「うえの」の系列だけあって、あなご料理はさすが美味だった。以前、高松宮殿下が宿泊されたという部屋を利用することができ、食後は部屋の2階にあるプライベート温泉に浸かったり、書斎コーナーで音楽を聴きながら珈琲を飲んだりと、実にゆったりとした時間を過ごすことができた。時には何も考えず、庭の桜をただ眺めたり、読書や音楽で過ごす時間も貴重だと実感できた次第。                須磨 光

2016年5月13日 久保山菜摘ピアノコンサート

県立美術館内のゾーナイタリア イン・チェントロにてピアニスト久保山菜摘さんのコンサートディナーがあった。

広大教授の濵本先生が、ご縁があって招致されたとのことだったが、大御所とはまた違って若葉のような瑞々しい演奏が心に沁みた。

ショパンのノクターン嬰ハ短調と24のプレリュード、締めは リストのラ・カンパネラといったプログラムだったが、ノクターン の遺作、良かった。耳から入った曲で、戦場のピアニストの映像が頭の中で流れた。

子供の前とかで演奏する際には、飽きないように目隠しをして演奏することもあるそう。実際に目隠しをしてモーツァルトを弾いてくれた。
聞き手のことを考えて演奏する姿勢に、感心した。
久保山さんは、「なっちゃんの大冒険」という本も出版されており、小学6年生から毎年チャリティコンサートを開催され、2014年5月には、寄付で集まった鍵盤ハーモニカを持ってペルー高地の小学校まで出向かれている。

「音楽を通じて国際交流と平和活動に貢献する」というのが私の持論なのだが、まさにそれを実践しておられ頭が下がるばかり。
演奏終了後に各席を挨拶して回られたのだが、「また広島に来てね」と声をかけると、「ぜひ」とチャーミングな笑顔で応えられた。

演奏も人間性も素敵なお嬢さんでした。

エリザベト音楽大学後援会理事 須磨 光